私はサスケ君が思ってる以上にサスケ君のことが好きなのよ!

なんて、泣きながら携帯を顔面に投げつけて吐く台詞じゃない。
あえて避けることをしなかったサクラの攻撃を甘んじて受けたサスケはすぐに後悔した。
か弱き女子の反撃とはわけが違う。
衝撃をうけた額からつうと血が垂れた。
こいつの力はなめちゃいけなかった。
彼の端整な顔の真ん中に入った鮮紅を目にし、さすがのサクラも一瞬申し訳なさそうな顔をした。
こういうところが彼女の駄目なところ。
駄目男に付け入る隙を与える、駄目女の一面。

「ご、ごめ…」
「謝らなくていい」

サスケの傷に手を伸ばそうとしたサクラのそれを掴んだ。

「とりあえず座れ」

言われて一瞬戸惑ったものの、サクラがおずおずと彼の隣に腰掛ける。
サスケは視界を妨げる赤をシャツで荒々しく拭った。

「どこから説明したらいい」

こんなときでさえサスケは冷静だった。
取り乱すサクラを前に、彼はいつも。
サクラはずずっと鼻をすすった。

「これは何」

そして、先程彼に投げつけた携帯電話を開く。
そこには、嬉しそうな顔をして女を侍らせるサスケの姿があった。
今までに見たこともない、身に覚えのない写真だ。
しかし、画像のサスケの周りにいる女はどこかで見たことがある。
上司との付き合いで入った、クラブの女だ。
ならもう合点がいく。
この鼻の下を伸ばして、厭らしい笑みを浮かべるこの男。

「…お前は、これが俺だと思ったのか」
「どうみたってサスケくんじゃない!」

ああ、そうだ。
どう見たって俺だ。
この女の洞察力は本当にくノ一かと疑いたくなるほど、サクラはサスケに関することとなるとからきし無能だった。

「これはナルトだ」
「え?」
「あいつ酔ってたからな、いつもの悪ふざけだ。俺以外にもシカマルやネジバージョンもあるぜ」

サクラはもう一度よく画像を見た。
どう見てもサスケにしか見えないのだが。
言われてみると、サスケの顔はこんなしまりのない顔じゃないような気がする。

「で、でも証拠はないじゃない!」
「証拠があればいいのか」

サスケは自らの携帯電話を操作し、自分の耳に押し当てた。
呼び出し音が暫くなって、「はい」と男の声がする。

「てめぇこないだナルトが俺に変化した時の写真、サクラに送ったろ」

電話の相手は、一瞬沈黙したものの、大声をあげて笑いだす。
聞き覚えのあるその声は、受話器越しにでもカカシのものだとわかった。

「笑いごとじゃねぇんだよ、このウスラトンカチ」
「え、何、今修羅場なの」

なぜか嬉々としたカカシの声。

「おかげで流血もんだ。後で治療費請求するから憶えてやがれ」

吐き捨てて、サスケが電話を切った。

「どうしてカカシ先生から送られて来たってわかったの?」

泣きそうな顔でサクラが尋ねる。

「あの場で嬉しそうに写真とってたのはあいつだけだっからだ」
「じゃあ、本当に浮気してないの」
「これでも疑いたきゃ疑えよ」

サスケは首を竦めた。
確かに、サスケが女に囲まれて嬉しそうな顔をするとは思えない。
冷静になった今だからこそ、この画像の不可解をようやく理解した。
自分の早とちりで、サスケを信用しきることができなかった己の浅はかさには何度呆れることか。
サクラは頭を垂れた。

「ごめん」
「だから謝んな」

しかし、すかさずサスケが口をはさむ。
そうしてサクラを見た。
涙を浮かべた碧眼はいつだって俺を好きだと語る。

「お前を不安にさせるようなことした俺にも落ち度あった。悪かった」

たとえばこの人のこういう優しさは、私をどんどん深みにはめていくのだ。
私の浅はかさに理由があるとすれば、多分サスケの甘さなのだろう。
ぽろりと涙をこぼし、サクラが彼の額に手を翳す。
一瞬にして、傷は消えてなくなった。
サスケは目の前に来た彼女の腰を抱き、己の膝に座らせた。
それが合図かというように、サクラは腕を彼の首に巻き付けてぎゅっと力を込める。
ふぇ、と幼子のような声を上げ、サクラが泣いた。
恐らく安堵の涙。

本当に馬鹿だなと思う反面、何処から沸き上がるかわからないこのこそばゆい気持ちをどうすればいいのかいつもサスケは戸惑った。

サスケのこととなると、一瞬で馬鹿になれるこの女を自分は自分で思っている以上に好きなのかもしれない。



END.


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