共に、生きることを望んだ女と、共に、堕ちることを望んだ男。



連理の枝



やはり、女より美しい顔をしているのではないかと、この期に及んでまだそんなことを考えていた。
綺麗な瞳、筋の通った鼻。
口元のラインが、妙な妖艶さを演出するのは、きっと気のせいなんかではない。
気のせいであってくれればどれだけよかったか。
そんなサクラの思いは虚しく、思考を徐々に狂わしていく。
"それ"の為だけに用意されたベッドの上に、サクラの身体は無抵抗に押し倒された。
両腕を掴む、力強い掌は今まで一度だって私を抱きしめたことはない。
彼の名前しか呼んだことのなかった唇は、先ほど初めて男を知った。
深く合わさる唇の端から漏れる吐息を、自分が出しているのだと知って恥ずかしさが頂点になる。
慣れたようなサスケの手は、あっけないほど簡単にサクラの夜着を脱がしてしまう。
ほのかに明るい部屋に浮き彫りになるのは、白い肌。
誰も、踏み込んだことのない真雪のような錯覚を覚えたが、サスケの唇が躊躇いなくサクラの肌に赤い徴を残していった。
くすぐったいような感覚に、サクラは泣きそうになる。
下唇をぐっと噛みしめて、それだけは堪えた。
(望んだのは、私)
拒否することは最早許されない。
後悔もしていないはずだ。
ただ、サスケの手が自分の肌に滑る度、怖いくらいの幸せと、同時に深い絶望に追いやられるのをサクラは気付いていた。
彼の手は私を愛してなどいない。
何の隔たりもない肌が直接それを感じ取る。
一族の復興させるための手段でしかない。
そんなことは、こうなる前からわかっていたし、それはきっと一生変わらない。
私は、子を産むだけの為にこの家に居続けて、そのためだけに死んでいく。
(覚悟していたはずなのに)
これ以上サスケの顔を見ることができなくて、瞼をゆっくりと閉ざす。
どうせ、顔色一つ変えず抱くのでしょう。
一族の為に、子を成す為だけに。
わかってはいるのに、彼と添い遂げる夢を、彼に愛される夢を、見続けている自分はどうかしているのだろうか。





**

サスケとの結婚が決まったのは一週間前だった。
一生を決めるにしては笑えるほど早い時間。

深刻な面持ちをした綱手に呼び出されたときのことを、サクラはきっと生涯忘れることはない。

「サスケの結婚相手として、お前の名が挙がっている」

一切誤魔化すことはせず、綱手はそう言い切った。
突然の話に思考がついていけず、ただ目を点にするばかりのサクラに気付いて小さく綱手は首を振る。

「うちはの一族を復興させる任務として、お前が第一候補になっている」

それはきっと、火の国のお偉い方との会談であろう。
乗り気ではない綱手の口調から、そう読み取られた。
サクラは、火の国でも、一番を誇るくノ一であり、また医療忍者でもある。
かつて栄えたうちはという血筋を遺す為にも、遺伝子情報としては十分に有力なのだ。
サスケの許可は得ていると、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で綱手は呟いた。
一族復興はサスケの悲願。
それが叶うのであれば、手段は厭わない等と、なんとも彼らしい決断に笑いがこみ上げてきそうになる。
そんな彼の子を成す道具として、己が選ばれた、大役且つなんとも皮肉すぎる任務。

「私が断れば、どうなるのですか」

なんとか声だけは震えないように努め、できるだけ真剣な眼差しで、綱手の鈍る瞳を見つめた。

「お前の代わりを探すだけだ」

うちはの復興など、所詮その程度にしかすぎぬと、諌められている気分がした。
まさか、幼馴染であり、第七班であり、彼に片恋をしていた自分に、そんな話が持ちかけられるなんて思ってもみなかった。
木の葉の上役というのは、どうしようもない、"KY"みたいだ。
サスケを昔から知るものとして、この馬鹿げた任務は乗るべきでないと思う。
今まで、苦汁を啜ってきたサスケにだけには、彼が決めた人と、添い遂げてほしいとサクラは偽りなくそう考えていたからだ。
彼自身が幸せを掴むべきだからだ。
けれど今サクラが拒否したところで、別のところで同じことが繰り返されるだけ。
中には、うちはという名声だけで彼に寄ってくるものもいるだろう。
そんな心配をすることは、おせっかいだと知っておきながら、サクラの嫉妬心がそれを許さない。
決断することなど、ほんの三秒もあれば十分だ。

「――わかりました」

きっぱりと言い切ったサクラに、綱手は思わず眉を顰める。

「正気か?サクラ。こんな馬鹿げた計画、乗るだけお前は不幸になる」
「それでも」

こくんと一つ、サクラは頷く。
綱手の気持ちは痛いほどわかった。
かつてサクラがサスケに想いを寄せていたこと。
第七班として、今も行動を共にしていること。
同じ第七班であるナルトの気持ち。
血継限界を持つ子を残す身体へのリスク。
たくさんの理由が、サクラを止める理由に直結する。
精一杯にサクラは笑った。

「ただ、"妾は取らないこと"それを相手方に伝えてください。私の遺伝子に文句は言わせないです」

特に語尾に冗談を乗せて、そんなことを口走る。
建前は、サスケにこれ以上不幸な道を歩んでほしくない為。
本音は、サスケが他の女を愛するところなど想像もしたくなかったから。
そんなこと、自分が思う権利なんてありやしないのに。

「ああ、伝えておこう。お前の血であれば、私が保証する」

うちは復興に向けて。
身を捧げると言わんばかりのサクラに、綱手はそれ以上何も言えなかった。
サクラがサスケを思う気持ちの深さなど、綱手は知らない。
しかし、何が彼女を此処まで献身的にするのか、少しだけわかるような気がした。

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