人々の熱気で暑く感じられる酒場。何でそんなに盛り上がっているのか、毎日飽きもせず騒いでこれ以上何を騒ぐのか。そんなことを考えていても一生答えなど出ないだろう、とクォークに言われた。
それにしても暑い、どこにいても暑い。さすがに耐えかねたユーリスが自分を後ろから抱きしめる腕を振りはらった。


「暑い!」

「俺も暑い」

「では離れるのが得策。ユーリス殿、こっちに来るといい」


暑いといいながらユーリスに抱きつくエルザを見て、クォークは胃痛を覚えながらため息を吐き出した。仕事の合間でわざわざ酒場に(ユーリスに会いに)来たタシャもエルザのことを冷めた目で見ている。しかしエルザは離そうとはせず、むしろユーリスの身体に回す腕に力を入れていた。ユーリスのほうが暑そうだ、見ていて哀れになる。
どうやらセイレンに大量に酒を飲まされたようだ。エルザはすっかり酔ってしまっている。人目を気にせず、注意も聞かないのは酒のせいだろう。


「ユーリス殿を離せ、エルザ」

「断るよ。ユーリスは俺のだから」

「…貴殿は大きな誤解をしている。ユーリス殿は決して貴殿のものではない」


二人の間に火花が散ったように見えた。おそらく今それが見えているのは第三者であるクォークだけだろうが、やはりユーリスは気の毒にしか見えない。
二人の空気はあきらかに酒場の空気から浮いていた。しかしそんなことは構わず酒場は今日も盛り上がる。飲んで、喋って、笑って。繰り返しの毎日、平凡、それでも特別な日々。


「好きだよ、ユーリス」

「…ッ、ばか…!」

「ユーリス殿、」


タシャがユーリスの腕を引っ張る。油断していたエルザの腕はすっかり緩んでいて、簡単にユーリスはタシャの腕の中へと閉じ込められた。エルザが柄にもなく不機嫌そうな顔をする。タシャも柄にもなく満足げな笑みを浮かべていた。ユーリスが困ったようにクォークを見ると、クォークは苦笑していた。
ユーリスがタシャを見上げる。タシャと目が合った瞬間に彼が微笑んだので、不覚にもユーリスは顔を赤くしてしまった。


「…クォーク」

「なんだ?」


エルザとタシャが口論を繰りひろげる中、タシャの腕にしっかりと抱かれているユーリスが口を開く。酒場の賑わいの中では消えてしまいそうなくらい小さな声だったが、しっかりとクォークの耳には届いた。


「今、すごく幸せ」


ありふれた特別。人のあたたかさも、耳を塞ぎたくなるような賑わいも、絶えることなく続くということがこんなに大切だとは思わなかった。

(隻眼の彼は、幸せ色に染まっていた)



end.









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