200人うぇい企画 | ナノ
sweetie


 可愛い彼女に対して「可愛い」と言っているだけなのに、バカ、という言葉で表現されてしまうのは些か不満だが、結論から言ってしまえば、確かにバカである。勿論、頭が悪いという意味でのバカではなく、親バカだとか、そういった言葉と同類のバカだ。つまり、彼女バカ。
「なぁ、」
「なに?」
 部室で一人、部誌を書いていた彼女を背中から抱きしめれば、こちらを振り向いてふわりと笑う。特別、彼女に用事があるわけではない。一緒に帰るべく、彼女が記入部分を書き終えるのを待っているだけ。ただそれだけなのだが、だからこそ、というべきか。静かな空間の中、カリカリとペンを走らせる彼女。その背中を見ていると、どうしても抱きしめたいという欲望に苛まれ、思わず抱きしめてしまったのである。
 ごめんね、もうすぐ終わるから。そう言って、彼女は再び俺に背を向けてペンを走らせた。本音を言えば、彼女を待っているこの時間すら愛おしいから、別に急がなくても構わないのだけれど。それを口に出すのは少しばかり恥ずかしくて「ん、」と抱きしめる力をほんの少し強めた。
「ふはっ、鉄朗、猫みたい」
「え、どの辺が?」
「構ってくれないとすり寄って来るところ」
 それは褒められているのか、貶されているのか。つまらない疑問は、彼女に言われるのならどちらでも良いか、という考えによって簡単に消え去ってしまった。
 ぐりぐりと彼女の肩に頭を押し付けて「んじゃ、可愛がって?」と甘えて見せれば、利き手とは反対の手で俺の頭を優しく撫でて「もうちょっと待っててね」なんて。俺の扱い方をよくわかっている彼女は、決して甘やかさず、けれど冷たくあしらうこともせず。きっと、こうすれば俺がもっと甘えてくることくらいわかっているのだ。そして、そんな彼女の考えがわかっていながらも、俺は彼女に愛と癒しを求めるのである。
「終わった?」
「もうちょっと」
「んー……終わった?」
「子どもじゃないんだから」
 今度は子どもか、それも良いな。一人で妄想を膨らませてにやける俺に、彼女の「終わったよ」が届くまであと数秒。

 さぁ、構ってくれ。



200人うぇい企画「S」sweetie・りくちゃんより(171107)






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