200人うぇい企画 | ナノ
Jealousy


 成績はいつも上位、運動神経も良ければ、顔も性格も良い。所謂「モテる」タイプである俺の彼女は、それらのスキルを全て無駄にしてしまう程、三次元に興味がない。いや、興味が無いというのは語弊がある。つまり、ゲームの世界に住んでいる二次元の男に本気で惚れているのだ。俺の彼女、なのに。
 正直言って、俺にはそんな二次元の男の何が良いのかなんてさっぱりわからない。そんなことを口に出したら喧嘩どころか、子ども宛ら「絶交!」と言われてしまう気がするから、決して言葉にはしないけれど。すぐ隣に居て、三次元で、本当の彼氏である俺より、画面の向こうで不気味なほどいつもニコニコしてる二次元の男が良いと思えるのが、俺には心底不思議でならない。
「お前、そいつ好きなの?」
「うん、大好き!」
「ふーん」
 大好き、と来たか。
髪の毛はふわふわで、いつもニコニコしてて、元気なタイプらしいその男は、どう見ても俺と正反対で。興味が無いような返事をしながらも、内心ではぐるぐると醜い感情が渦を巻く。俺よりコイツが好きなのか?と、口に出す勇気もないまま、言葉は空気となって呼吸と一緒にその辺に散らばってしまった。
画面の中の男が「お前が世界で一番好きだ」なんて在り来りな台詞を吐けば、頬を染めてきゃいきゃいとはしゃぐ彼女を見ながら、スマホを叩き割りたい気持ちを全力で抑える。俺が同じ台詞を言ったところで、彼女はこんなに喜んでくれるだろうか。その言葉も、伝えられずに空気と化してしまうんだろうけれど。
「あ、SSRキタ!」
 SSR、というレアカードを引き当てた彼女は、先程より一段とテンションを上げて騒ぎ立てている。「よかったな」と、自分の存在を示す為だけに彼女に向けられた言葉が、自分でもあからさまに嘘偽りで染められていたように思えたが、どうやらそれすらも気にしてくれないらしい。というか、此方を見てくれさえしないじゃないか。
 拗ねる、なんて子どもじみた言葉で表現してしまうのは些か不満だけれど、多分、今の俺の状況はその「拗ねる」に他ならない。寄り掛かって彼女の邪魔をしてみたり、勝手に彼女の膝枕を借りて無意味にスマホを眺めたり、俺にしては結構珍しい行動をしているはずなのに。
 あぁ、ムカつく。
「なぁ、」
「なに、っ……ん、っふ、」
 片手で彼女の目を覆い、反抗される前に深く口付ける。ぼとり、とソファーにスマホを投げ出した彼女の手が、俺の服をぎゅ、と握りしめた。一度、口を離し、彼女に呼吸を整える時間を与える。けれど、言葉を紡ぐことは許さずに、俺はもう一度彼女の口を塞いだ。
「これでも二次元の男を選ぶわけ?」
 口を離し、はぁはぁ、と肩で息をする彼女にそう告げたのは、俺の意思ではなかったのだけれど、それこそが俺が言いたいことの全てだったからだろう、止めようとも思えなかったのだ。
 一瞬、きょとん、とした彼女だったけれど、流石に意味を理解したらしい。小首を傾げて「……嫉妬してる?」なんて聞かれたら、図星過ぎて否定できなかった。
「悪いかよ、ばーか」
 憎たらしい言葉を吐いて、それから再び彼女の口を塞ぐ。きっと顔が真っ赤に染まっているであろう俺には、この後、彼女が紡ぐであろうありとあらゆる冷やかしを受け入れる余裕がない。そう判断して、意図的にキスをしたのだけれど、どうやら、彼女にはそれすらもお見通しらしい。
二次元にしか興味が無いんじゃなかったのかよ。
 唇を離した瞬間に「ふふっ、」と零れた彼女の笑みに、やっぱりスマホを壊してやりたくなった。



200人うぇい企画「J」Jealousy・藤ちゃんより(171104)






back