200人うぇい企画 | ナノ
Letter



※高校三年生、未来捏造



 京治へ。
 今日で付き合って二年だね。最初の頃の京治は頭も運動神経も良くて、いつも先輩に可愛がられていたから、話しかけにくい存在でした。あたしと京治は別世界の人間だと思っていたし、きっとこれから先、あたし達の人生が交わることなど無いと思っていました。だから、あの日、席替えで偶然か運命か、京治と隣になった時、今までの人生で一番と言っても良いほど緊張していたのを今でも覚えてます。まさか、隣の席になるなんて思いもしなかったのに、その上「よろしくね」と声を掛けてくれて。多分、あたしはその時からずっと京治のことが気になっていたんだと思います。全然自覚は無かったんだけどね。
 京治に好きだと告白された時、あたし、一日だけ考えさせてって言ったよね。あの時の京治の悲しそうな顔は今でも鮮明に覚えています。そんな顔をさせてしまう程、悲しい気持ちにさせてごめんね。あの時、すごく嬉しくて、本当はすぐにでも「あたしも好き」って返事をしたかったんだけど、あたしなんかが京治と釣り合うわけないって思っちゃって。だから、一日だけって言ったの。でも結局、京治の悲し気な顔が忘れられなかったし、京治が「俺が幸せにする」って言ってくれたのが何よりも嬉しかったから、素直に「好き」って伝えられました。ありがとう。
 最近、京治は「構ってあげられなくてごめんね」って言うけど、あたしは全然気にしてないし、むしろバレーに熱中してる京治がすごくカッコ良くて大好きだから、もっと見てたいなって思うよ。こっちこそ、気にさせちゃってごめんね。いつも気に掛けてくれてありがとう。
 これから先、あたしはいつまでも京治と一緒に過ごしていくつもりです。だから、たったの高校三年間、だけど、大切な青春の時間、全力でバレーを楽しんでください。あたしはいつでも両手を広げて待ってるから、手が空いた時に構ってくれたら満足です。
 長くなっちゃったけど、最後に。こんなあたしですがこれからもよろしくお願いします。高校最後の大会、頑張ってね。


「赤葦、何してんの?」
 もう何度も読み返したその手紙をもう一度大切に封筒へとしまっていれば、去年まで一緒に戦っていた先輩の木兎さんが俺の顔を覗く。俺のことを可愛がってくれているのか、暇なのか、はたまた両方かは分からないけれど、引退してからもこうして何度も見に来てくれるのだ。だからこそ、木兎さんにはすぐに気付かれてしまったのかもしれない。
「赤葦、なんか今日機嫌良い?」
「はい、すごく良いです」
 そう言って笑って見せれば、木兎さんからは「じゃあ試合終わったらトス上げてくれ!」なんて相変わらずの反応が返ってくる。今はもう俺と木兎さんはコンビではないのだけれど、あの頃と変わらず接してくれるのは、正直嬉しい。が、それとこれとは別の話である。俺は木兎さんに首を振って見せ、それからもう一度、今度は遠くの方の応援席を眺めながら笑った。
「すいません、ずっと俺のことを待ってた人が居るので」
 言えば、木兎さんは「あ、そっか」と納得してくれた様子で。それからバシッと背中を強く叩いたかと思えば「じゃあ、優勝持って帰ってやろうぜ!」と。そんなこと、言われなくてもやってやるつもりだ。

 高校最後の大きな大会の、最後の試合。全力で楽しんだ高校バレーももうすぐ終わる。そうしたらもう一度「好き」だと伝えるから、もう少しだけ待ってて。



200人うぇい企画「L」Letter・葵さんより(171016)






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