200人うぇい企画 | ナノ
Wonderful World


 突然だけど、俺の大好きな彼女の話をしよう。
 俺の彼女は俺と同い年で、俺が所属している男子バレー部のマネージャーだった。一年生の時は同じクラスだったから、朝から晩まで一緒に過ごしていて。それが原因かどうかは分からないけれど、俺は次第に彼女に惹かれ、彼女もまた俺のことを好きになってくれたのだ。
 付き合い出したのは、一年の冬。雪が降り積もった夜道で「さむい」と零しながら、一生懸命に自分の手を暖める彼女が小動物みたいで。可愛い、と零してしまったのは俺のミス。だけど、そんな俺のミスに対して、彼女が随分と嬉しそうな顔をしていたから。
 告白したのは俺。彼女はそんな俺に「顔、真っ赤だよ」って笑ったけれど、彼女も十分真っ赤で、やっぱり可愛かった。
 高校三年の時は、俺が三組で彼女が六組。同じバレー部員であり、主将である及川と同じクラスだと知った時は、思わず及川をぶん殴ってやろうかと思った。及川が何一つ悪いことをしていないのは分かっている。これはただの嫉妬だ。因みに、殴ったりはしなかったけれどむしゃくしゃしたから、及川の机の上にあった牛乳パンを潰したのは反省している。牛乳パンに失礼なことしたよな、ごめん。
 それはさて置き、彼女の好きなところは、大きく分けて一つ。そう、つまり、全部。
 そんな話をバレー部仲間の岩泉にしたら「お前は年がら年中、頭ピンクだよな」と溜息を吐かれたことがある。俺の内面と外面の両方を同時に悪われたような気がして、心が折れそうになったが、咄嗟に付け足された「あ、髪じゃねぇからな」の一言で何とか持ちこたえた。その付け足しも失礼だと思うけれど。
 そもそも、彼女の好きな所を選べ、という方が無理な話だ。嫌いなところなど一つもないんだから、全部好きに決まっている。勿論、俺だってバカじゃないから、世界が好きと嫌いの二択じゃないってことは分かっているけれど、それとこれとは別の話。彼女と俺の世界には好きと嫌いの二択どころか、好きの一択しか存在しない。
 不満とか、そういうの無いの?あるんだったら、あたし、直す努力するよ?
 これは確か三年の夏頃に、彼女に言われた一言である。俺があまりにも好き好き言っているから、不安になったのだろう。そんなことを言われても無いものは無いのだけれど。強いて言うなら、心配そうに眉を下げて俺を見上げた彼女の可愛さは罪深かったってことくらいか。
 そういえば、部活用のTシャツを忘れたとかで俺のTシャツを貸した時は、丈が長かったから彼女のハーフパンツが隠れちゃって、短めのワンピースみたいになってたっけ。あぁいうのも、俺の理性とかそういうのが諸事情により大変だったからやめて欲しい。因みにその日は「有罪判決です」とだけ告げて、ちゃんと召し上がったから安心してくれ。何をとは言わないけど。
 あとは、部活の時に及川や岩泉との距離が近いのも、あの時の俺にとっては大問題だったな。主将と副主将とマネージャーっていう関係上、連絡事項とか色々話すことはあるんだろうし、そういうのは仕方がないと思っているけれど。俺が言いたいのは、物理的な距離感の話。普通に肩組まれたり、頭わしゃわしゃされたり、そういうの。もっと自衛してくれよ。むしゃくしゃしたから、及川が帰りに食ってた肉まんを「一口ちょうだい」って言って半分以上食ってやった。この件に関しては、反省する必要などないと思っている。
 その他にも、大学で色んな男にナンパされたり、そんな自分を棚に上げて「貴大、ナンパされてたよね」って拗ねていたり。付き合い出したあの日から、それなりに色んな事はあったけれど、それを踏まえても、やっぱり俺は「好き」の一択しか持っていないってことを再確認しただけだった。

 ―――あ、いや、ちょっと待って。

 真っ白いドレスに身を包んだ彼女を見て、ぎゅ、と奥歯を噛みしめた。多分、気を緩めたら泣いてしまいそうな気がしたから。
「貴大、泣いてる?」
「まだ泣いてない」
「これから泣くの」
「……ん、多分泣く」
 言えば、ふはっ、と吹き出した彼女。あの頃からずっと変わらない笑顔に、視界が段々とぼやけていく。こんなに大勢の前で泣くつもりじゃなかったんだけどな。こんなの、カッコ悪いじゃん。でも残念ながら、もうこの涙を止めることは出来ないみたいだ。
 俺と彼女の世界には「好き」の一択しかないと思っていた過去の自分よ、聞いてくれ。あれから数年経った今、俺と彼女の世界にあるは「愛してる」の一択。言葉にすればちっぽけになっちゃうかもしれないけれど、俺はすごく幸せだ。

 これは俺の愛しい嫁の話。



(180415)






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