200人うぇい企画 | ナノ
Aventure


空き教室の片隅で、あたし達はキスを交わした。
本来ならば授業を受けているはずの三時間目の真っ最中だけど、適当な理由をつけて教室を抜け出したあたし達は、いつものようにここで待ち合わせたのだ。この時間に誰かがこの教室に入ってくることは無いし、万が一に備えて施錠もしてある。それでもドキドキしてしまうのは、授業をサボっているからだろうか。それとも、あたし達の関係が真っ当なものではないからだろうか。

「彼氏くん、心配してんじゃね」

ブブブ、と震えたスマホのロック画面に表示されたのは、紛れもないあたしの彼氏からのメッセージで。それを覗き見た目の前の男、二口は、悪戯っ子の様に口角を上げた。体調不良という理由で授業を抜け出したのだから、彼氏が心配してくれるのは想定済み。けれどそれに返信はせず、あたしは二口を見やる。

「あの男はもういいの」
「最低な女だな」
「どっちが」

ケラケラと笑う二口もあたしに違わず最低だと思う。
あたし達の関係が始まったのは、もう三か月も前のことだ。彼氏と喧嘩してこの教室で泣いていたあたしの元に現れたのが、他でもない二口だった。当時はただの友達でしかなかったし、それ以上でもそれ以下でもなかったのだけれど。あの瞬間、あたし達の関係はいとも簡単に帰られてしまったのだ。「俺、お前が好きなの、知ってた?」舌なめずりをする二口に、背筋がぞわりと凍えるような感覚がして。けれども、どこか受け入れてしまう自分も居て。

――――――じゃあ、奪ってよ。

一度、カラダの関係を持ってしまえば、そこからの進展は一段飛ばしの様だった。カラダの関係だけではなく、暇な時は二口の部活の応援に行ったり、部活のない日は普通にデートしたりもしている。この際、彼氏にバレても良いのだけれど、この緊張感があたし達の恋愛を盛り上げてくれているような気がして、どうせならギリギリまでこの関係でいようと結論付けられた。

「ま、俺がホントの彼氏になったら浮気なんかさせねぇから」
「ふぅん」
「どんな手使ってでも奪う、っつーの?得意みたいだし?」
「二口ほどゲスい人、見たことないわ」
「その台詞そっくりそのまま返してやるよ」

そう言って、二口はあたしにキスを落とす。随分と強欲な彼は、是が非でも欲しいものを手に入れるタイプらしい。「でも好きなんでしょ?」と煽るあたしに、二口は「ん、」なんて顔を赤らめる。簡単に手を出したくせに、真っ直ぐな恋愛となると急に照れるとか、そういうの、ズルい。「あたしも、好きだよ」答えて、キスを交わす。

ブブブ、と鳴ったスマホのロック画面に「今、様子見に行くから」と彼氏からのメッセージが一つ。けれどそのメッセージに気付いたのは、あたしの「彼氏」がその男から二口に変わった後のことだった。



(170707)リク…まきのちゃん「Aventure」/200人うぇい企画






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