200人うぇい企画 | ナノ
Victory


 この試合で勝ったら付き合ってほしい。

 試合の直前も直前の事である。アップも終わり、今からコートに立とうとしたその時、彼、京治はみんなの前であるにも関わらず、あたしにそう言ったのだ。勿論、試合前の緊張を紛らわそうとする京治なりの冗談、なんかではない。彼は至って真剣な表情であたしを見つめている。
「あ、赤葦?」
 先輩である木葉さんの不安げな声が紡がれようとも、いつものポーカーフェイスを一切変えないあたり、緊張して口走ってしまったということでもないらしい。監督やコーチがポカンと口を開けているのが、彼には見えていないのだろうか。「え、と、」と吐き出す言葉を探せずにいれば、おのずとあたしへと視線が集まった。やめて、見ないで。そんなあたしの願望は彼等には伝わらない。
 普段、こういう時に場を持ち直すのは彼の役目だ。その彼が暴走したとなれば、最早、止めてくれる人など存在しないに等しい。先輩たちに、どうにかしてくれ、と舌打ちを零しそうになるのを抑えて、必死に紡ぐべき言葉を考える。
 そもそも、梟谷のみんなには心から願っているのに、その提案はズルくないだろうか。もしもあたしが本気で京治のことを快く思っていなかったら、勝ってほしいという気持ちと同時に、負けてほしいと願わなければならない。京治にとって勝利は付き合うためのきっかけにすぎず、本当は確信を持っているのかもしれないけれど。
 やっぱり、ズルい。
「……いいよ」
「えっ、本気か!?」
「落ち着いて考えろよ!?」
 先輩たちが声を上げるが、あたしはこの判断を間違いだとは思っていない。
「梟谷は、勝ちます。その自信がある上で京治がそう言うのなら、今更あたしの気持ちを隠す必要はないんです。」
「……ってことは、お前ら、」
「この試合で負けたら、卒業するまで付き合わないから」
 瞬間、京治の目が大きく見開かれた。遠くの方で、整列を催促する音が聞こえる。「赤葦、行くぞ」と半ば無理矢理、先輩たちに連れていかれた京治は、挨拶をしても困惑の表情を崩せないでいた。友に合宿をした相手高校のメンバーからも「大丈夫?」などと心配されているのが見える。
 けれど、梟谷は勝つのだ。あたしがそう信じているから。負けたら、なんて有り得ない。それがつまり、何を意味しているのか、きっと京治なら分かってくれたはず。

「優勝してくれて、ありがとう、素敵な彼氏さん」



200人うぇい企画「V」Victory(180102)






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