男は松、女は藤と言うけれど。 | ナノ




「お前が危なっかしいのが悪い。」その言葉に嘘はないけれど、久しぶりに手を差し出した理由はそんな簡単に解決するような話じゃないのだ。俺達兄弟が、同じく兄妹である松姫(まつき)に対して、一般的なソレとは大きく異なった方向で強い感情を抱いていることは気付いている。それは恋愛ではないし、その他数名の家族に向けられる家族愛ともまた違う。
けれど俺達は確かに松姫(まつき)を「愛して」しまっているのだ。そのことはまだ知られたくないし、知ってほしくない。全力で松姫(まつき)を護り、愛するというルールは、いつの間にか男兄弟間での暗黙の了解となっていた。

「食器洗剤、漂白剤、洗濯洗剤、それと……」
「洗濯洗剤ってこれだよな。」
「うん、それ。あとは、シャンプーとリンス。」
「これだっけ?」
「ううん、こっちの匂いに変えた。」
「あぁ、通りで先月あたりから匂い違うわけだ!」
「え、気付いてたんだ。」

何故か松姫(まつき)から冷ややかな目を向けられたけれど、それについては特に気にしないでおく。一日の殆どの時間を一緒に過ごしてるっつーのに気付かない方がおかしいと思うんだけど、とも言わないでおこう。男兄弟のちょっとした変化には目もくれない俺が、松姫(まつき)のことにはやけに敏感だなんて本人に勘付かれたら一巻の終わりだ。それに比べれば松姫(まつき)にちょっと引かれるくらい、どうってことない、こともないけれど、我慢くらいなら出来る。

それから他にも洗剤類を買ったり、ティッシュやトイレットペーパーを買って、漸くドラッグストアでの買い物を終えた。店を出て、思わず溜息を零したのが俺だけじゃないということは、一緒に買い物へと誘った松姫(まつき)自身もメモを開くまでは、まさか買い物がこんなに大量だとは気付かなかったのだろう。

「……重い。手、ちぎれる。」
「面倒臭ぇけど一回帰って休憩してからスーパー行こうぜ。」
「うん、そうする……。」
「そっちも持ってやるから元気出せよー。」
「お母さんに騙されるとかショック……。しかも多い……。」

ずーんと沈んだ表情でトボトボ歩く松姫(まつき)は、精神的にも体力的にも疲れたらしく、普段は殆ど零さない愚痴をポツリポツリと地面に落として歩く。そんな松姫(まつき)を見兼ねて、ティッシュとトイレットペーパー以外の全ての荷物を取り上げたは良いが、俺だってそんなに力がある方じゃない。こういう時に力のある奴が居れば、なんて考えながら前方を見やる。そして。
俺と松姫(まつき)がソレに気付いたのはほぼ同時で、お互いに顔を見合わせてニヤリと笑った。さっきまでの暗い表情はどこへやら、嬉々とした表情でそっちに向かう松姫(まつき)を追い掛ける。俺たち二人きりの時間を邪魔しやがって、なんていう気持ちもあるけれど、今回ばかりは感謝しかない。犠牲になってくれてありがとう……カラ松。



(160803)





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