男は松、女は藤と言うけれど。 | ナノ




松野おそ松は長男であり、リーダー的存在である。
その言葉に嘘は何一つないのだけれど、横並びのあたし達に長男がどうとか言われてもイマイチよくわからないし、リーダーというよりかは代表的バカという方がより一層近い表現な気がする。それに加え、クソバカ童貞揃いな兄弟たちは滅法女の言葉に弱いもんだから、あたしにしたらとても好都合に育ってくれたものだ。

「あれ、松姫(まつき)。今日は出掛けねーの?」
「うん。あのおばさんの家行ってからチョロ松が厳しくてさ。おそ松は?」
「俺も金ねーから今日は家にいる。」
「……じゃあ、後で買い物行くの、付き合ってくれる?」
「しゃーねーな。どーせ母さんのお遣いだろ?」
「うん、ありがとう。」

カラ松が居れば、荷物持ちとして最適であろうカラ松に頼むのだけれど、生憎今日は出掛けてしまっていて、いつ帰ってくるのかも定かではない。となると、正直言って誰でも良いのだけれど、偶然ここに居合わせた上に暇そうなおそ松に頼むのが妥当。暢気にテレビを見ているおそ松には、お米を買う予定だってことは言わないでおく。
というのも、前述の通りおそ松は女としては扱いやすい雑魚だが、そもそもの大前提として、あたし達は男と女である前に兄弟であることを忘れてはいけない。非常に残念だ。だからお米だとか大量の野菜だとか大量の飲み物だとか、そういう物を買う時は予め伝えてしまえば着いてきてくれない可能性があるので、内容物については一切触れないというのが二十数年生きてきて学んだことである。

「そういえばさ、お前ってどこで仕事してんの?」
「えっ、な、何急に!」
「何回か着けてみたんだけど毎回見失っちまってよぉ。悔しいけど正直に聞くことにした!」
「いや教えないよ!?っていうか着けたって何!?気持ち悪!」
「えー。別に全然邪魔とかしねーから!何かあった時の為に知っといた方が良いだろ?」

唐突に、けれど前々から聞こうとしていたことは、会話のスムーズさからすぐにわかった。「何かあった時の為に」なんて、よくもまぁもっともらしい理由を考えてきたもんだ。しかも、この間の発熱の件があった上でこの言葉をぶつけてきたのは、十中八九、意図的なものだろう。鼻の下を擦りながら「な?」なんて後押ししてくるが、教える気なんて更々ない。
こうも巧妙に策を練ってくるあたり、伊達にニートをやってないと思う。けれど、あたしだって伊達に兄弟やってないのだ。どこで仕事をしているか調査されるなんて当たり前だし、言葉巧みに言い包めてくることも想定済み。だから勿論、先手は打ってある。

「何かあった時に連絡する人はもう決まってるから。その人から家に電話してもらうようになってるよ、大丈夫。」
「えっ、だ、誰!?兄弟の誰かか!?男!?女!?」
「んー……男?」
「えっ、えええええ!お、男……!?」
「うん、男。」

言って、ニコリと笑う。そうすればゴンッと鈍い音が響くほどの重力で、おそ松が食卓に突っ伏した。



(160722)





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