青葉城西 | ナノ


▽ 砂漠を越えて


今年の夏の暑さは異常です、なんて画面の向こう側で綺麗なお姉さんが話すのを聞きながら、去年も聞いたようなセリフに盛大な溜息を零した。最もクーラーの当たるポジションに座り、銅像が如く動かない生活を送るあたしに、海だとかキャンプだとかアウトドアな言葉は無縁。それは、部活に入っているものの練習の時以外は外に出ない彼も同じである。

「あっち、」
「ちょっとこっち来ないで。暑い。」
「俺もクーラー当たらせろ。」
「うるさい、ここあたしん家。」

幼馴染だからか恋人同士だからかは知らないが、気付けば自分の家のようにあたしの家にいる彼に、家主に対する遠慮なんてものは無い。彼の家から、コンビニに行くよりも近くにあるあたしの家は、最早彼のセカンドハウスと成り果てている。まぁ、あたしの家族は妙に寛容で、まるで血の繋がった家族のように彼を受け入れているし、彼の家族とも仲が良いから何も問題は無いのだけど。

「合宿より全然マシ。」
「これ以上暑い上に運動するとか生きていけない。」
「バレーしてる時は楽しいから暑くねぇけど?」
「バレー馬鹿と一緒にしないで、」

気付けば、心地良く風の当たるベストポジションでゴロンと横になった彼は、隣をポンポンと叩いて「来い、」と。くっつけば暑いとわかっているのにも関わらず、結局彼の腕を枕にしたあたしは昼寝の体勢に入る。暑いくせに何故か心地良くて意識がどこかへ飛んでいきそうになるのは、彼があたしにとってオアシスだからだろうか。

「俺さ、」
「ん?」
「暑くてもくっつきたいほど好きなんだなって、名無しさんのこと。」
「ふはっ、」
「何笑ってるんですか、名無しさんさん。」
「ごめ、あたしも同じこと考えてたから、おかしくて、」

もぞもぞと体を動かして彼と向き合うように体勢を変えたあたしは、ぎゅう、と彼を抱きしめた。暑いけど暖かくて、汗臭いけど良い匂いで。彼、花巻貴大という存在はあたしの癒しであり、生きる糧なのだと再確認した。

「大好き、」
「あっちい。」


(160118)お題...まねきねこ


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