青葉城西 | ナノ


▽ 子犬の瞳



 さっきからずっと、あたしから離れることなくテレビを見ている彼。寒がりのあたしとしては暖かくて助かるけれど、別段寒がりでもない彼はそういうわけじゃないだろうに。
 ふと、トイレに行きたくなって立ち上がれば、彼は何を思ったのか反射的に腕を掴まれて。
「どこ行くの?」
「といれ」
「あ、ごめん」
 謝って手を離してくれたのは良いけれど、彼があまりにも名残惜しそうな表情をするもんだから、体がなかなか動いてくれない。まるで留守番をさせられる子犬のようだ。いや、現に彼は昨日の昼まで一人で留守番していたのだけれど。
 本来なら彼も一緒に、年末の挨拶をしにあたしの実家へ行く予定だったのだが、仕事が押してしまったことにより、仕方なく留守番コースに。そういえば、出発前はバタバタしていたから気にしている余裕がなかったが、確かこんな表情をしていたような。
「……もしかして、昨日まで一人だったから寂しかった、とか言わないよね?」
 まさか大人になってまで、そんな子どもじみたことを言うなんて思わないけれど、一応聞くだけでも。そうすれば、予想に反して、否、予想通りというべきか、首を縦に降る彼。自然と笑いが零れたのは言うまでもない。
「わ、笑うなよ!」
「いや、笑うでしょ」
 大人なのに、と付け足せば、大人でも寂しいもんは寂しいの、と文句を零して拗ねてしまった。確かに、大人でも寂しいという感情は持ち合わせている。けれど、ほんの数日の留守番だ。寂しいなんて、そんな。
 彼の感情を理解しきれずに首を傾げていれば、いつもはあまり見ることのない、真剣な表情を向けられて。だから、と彼は言葉を紡いだ。
「それくらい好きってこと!」
 言い終えると同時に、クッションへと顔を埋めてしまった彼。真っ赤な耳が見えていることは言わないでおこう。その代わりに「そういうとこも好きだよ」と残して、当初の目的地であるトイレへ向かった。真っ赤に染まっているであろうこの顔が落ち着くまで、ここから出られそうにない。


(171231)

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