青葉城西 | ナノ


▽ おつまみ


 金曜日の夜、二人で飲み明かすという行為が習慣化したのはいつの頃だっただろう。気付けば、どちらともなく大量のお酒を買って帰ってくるようになり、夕飯とお風呂を済ませた後に、テレビを見ながら乾杯するというのが当たり前になっていた。喧嘩をしていようと、飲み会の帰りだろうと関係なく行われているそれは、今日も今日とて同じように開催されることとなったのだ。
「一週間お疲れー!」
 同時に吐き出された二人の言葉はビールの泡と共にしゅわしゅわと弾け、コップに注がれたそれらの旨味成分へと形を変えた。喉を上下させながらごくごくと一杯を軽く飲み干した彼は、ぷは、と息を吐いて「最高だな」と笑う。何回見てもカッコいい飲みっぷりに惚れ惚れしながら、ニコリと笑って「うん、最高」と返した。何が、とまでは口に出さない。
 飲む前に二人一緒に作っているおつまみも、最初の頃に比べて随分と上達したし、種類も増えたと思う。すっぱすぎるマリネや、やたらと色の濃くなったから揚げ、砂糖と塩を間違えたフライドポテトに、固まらなかったアイスクリーム。思い出すだけで笑いが込み上げてくる。積み重ねた全てのものが愛おしい。
「あ、今日コンビニで新作あったから買ってきた」
「CMのやつ!飲んでみたかったんだよね!」
 あたしが日常で吐いたちょっとした一言を聞き逃さない彼は、いつもこうしてサプライズしてくれるのだ。過去に、そのスマートさをどこで手に入れたのか問い詰めた時に「知らねぇよ、」と真っ赤になった顔を腕で隠した姿は、今でも鮮明に覚えている。そんな優しい彼の気持ちを素直に受け取り、空にした二人分のコップに注ぎ直した。
「あ、美味しい」
「だな、今度から買ってくる」
「ありがとう」
 きっと、既に数杯飲んでいるというこの状況でも、彼は来週また、忘れずにこれを買ってくるのだろう。飲んで、たまにテレビに目を向けて、おつまみを食べて、また飲んで。そんな彼の繰り返しを見ながら、あたしは笑みを零した。そんなあたしを見て「何笑ってんだ?」と言いながら、つられて笑うあたり二人してとんだ酔っ払いである。
 何がおかしくて笑ってるのかわからなくて、ただおかしくて、笑いが止まらなくて。あぁ、こういうの、好きだなぁ。なんてしみじみと思っていれば、不意にお互いの唇が触れた。
「なんつーか、こういうの好きだって思ったら、キスしたくなった」
「ふはっ、あたしも同じこと考えてた」
 笑って、それから彼に抱き着く。そうすれば彼はあたしを引き寄せ、足の上へと移動させられた。子どもみたいで恥ずかしい、という野暮な言葉は飲み込んで、彼の首へ腕を回したあたしは「お返し」と彼にキスをひとつ。その行為が彼の引き金を引いたのだろう。

 ―――――やっぱ、金曜の夜はお前に限るな。

 ぐるりと世界が回ったかと思えば、ソファーに寝かされていて。あたしを跨ぎながらコップの中のお酒を飲み干した彼に映るおつまみは、きっと。



しさちゃんより(171210)


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