烏野 | ナノ


▽ 遥かな大空


太陽みたいな人、そんな言葉を聞いたことがある。それはつまり、太陽のように明るくていつでも輪の中心にいるような人間のことだ。彼は、決してそのような人ではない。彼はと言えば、太陽も月も、雨雲でさえも受け入れてくれる、まさに大空のような人。輪の中心ではないけれど、居なくては物足りないような気持ちになってしまう。

「名無しさん、お待たせ。帰るべ。」
「うん。」

彼、菅原孝支は、あたしにとって自慢の彼氏だ。特別目立つタイプではなくても、人柄の良さは学年中に知れ渡っているほどで、本人は気付いていないかもしれないけれど女子の間じゃ結構な人気。それを不安に思わないわけじゃないけれど、あたしは孝支のことを誰よりも信じていたい。それにもう一つ。

「ん、どーした?何かあったか?」
「ううん、何でもない!」
「それなら良いけど、」

孝支が心配する表情を見ると、胸が抉られるように痛む。「悩みごとあったらすぐ言えよ?」なんて言うけれど、相談したら本人よりも真剣に悩んじゃうような人間に、簡単に悩み相談なんてできるはずがない。

「じゃあ一つだけ相談しても良い?」
「ん、どうした?」
「肉まん食べようかどうしようか。」
「……ふはっ、」
「あ!聞いといて笑うなんて酷い!」

上手いこと話をシフトチェンジして、孝支の笑顔にホッと息を吐く。やっぱり、笑ってる孝支の方が断然カッコいいし、大好きだ。「奢るから一緒に食うべ!」なんて優しい所も大好きだし、買ってきた肉まんに思い切りかぶりついて「あっち!」って慌てる所も可愛くて大好き。思わず声を出して笑うあたしに膨れっ面をして、それから少し恥ずかし気にニコリと笑う彼の笑顔を守るのは、他の誰でもないあたしでありたい。

「ほら、帰るぞー。」
「はーい。」

それとなく差し出された手を握れば、ぎゅっと優しく力を込められて。この大空には雨が降らない様にと願って、あたしも少しだけ力を込めた。


(160227)お題...まねきねこ


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