オリジナル 超短編 | ナノ

Very short






彼女を後ろから抱きしめる。そうすれば少しだけ肩を揺らして、けれども俺を見ようとはせず、目下の本にまた目線を戻した。つまんねぇの、そう文句を零せば、彼女はパタンと本を閉じて、それから溜息を一つ。

焼き芋が食べたいの、買って。

あまりに唐突にそう言うから思わず笑ってしまった俺に、彼女は顔を赤くした。

秋だなぁ。何、文句あるなら言ってよ。違う違う、可愛いなぁと思って。う、うるさい。

照れる彼女の頬もまた、秋色。



(20110927)





大分涼しくなったなぁ、と呟けば、彼女は少し笑って、そうやね、と。涼しくなったと言えど、去年の今頃に比べれば、暖かいくらいだと思う。久しぶりに着た彼女のカーディガンには畳んであった跡がまだ残っていて、少しだけ新鮮な気持ちになった。

手、繋ごか?

言うのとほぼ同時に手を握る。冷たさと暖かさが一度に感じられた。暑いときは振りほどかれたこの手も、この時期になれば、今度は離れられなくなる。暖めているのか、暖められているのか、それは定かではないけれど、暖かい。そう思えるこの瞬間に幸せを覚えた。



(20110926)





窓を開けて、空気を入れ換える。涼しいなぁ、なんて去年の今頃は言っていただろうか。窓枠に肘をかけて、指が記憶している番号へと呼び出しをかければ、数回のコールの後に彼女の声が届いた。

なに、甘えたい時期?

夜遅くに電話したんが悪かったんか、嫌みをひとつ溢す彼女に、俺は(嘘やなくて)、うん、と頷く。すると彼女の小さな笑い声の奥に、赤面する彼女が浮かんだ。

暑いね。

そう言う彼女にさっきの仕返しがてら、涼しくなったなぁ、と嫌味を返す俺が笑顔なのは言うまでもない。



(20110925)

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