拭いきれない汗がほとばしる。熱風が感じられるような火口で劣勢に立たされた丸藤亮。それだけでも見物だというのに苦しげに闘気を纏う彼は妖しく笑う。 逆転する。 対戦者に向けられたその表情は雄弁に語っていた。 実技試験最終日。本日行われるのは成績優秀者トーナメント決勝戦。特に筆記が得意というわけではないなまえはとうの昔に自分のデュエルを終え、この注目の一戦を見に来ていた。 最終戦は昼過ぎに始まると予告されていたはずだが、どういうわけだろうか。既にデュエルは始まっており会場として用意された火口のスペースは帝王のデュエルを見ようと溢れんばかりに集まった生徒でごった返していた。 こんなことなら教室のスクリーンでの中継を待てば良かったとなまえは後悔した。このままでは帝王のデュエルどころか髪の毛さえ見ることは出来ない。 「すみませーん。通してください、すみません」 隙間を見つけてはこそこそと生徒たちの間をすり抜けていく。 (もう少し……あ、) 人の波に揉まれながら通り抜けた先は上手い具合に亮の真横の観戦席だった。他の生徒に目をつけられないように縮こまりながらもなまえはデュエルから目を離すことは出来なかった。 相手の場には攻撃表示モンスターと守備表示モンスターが一体ずつ。対して亮のフィールドはがら空き。もちろん伏せカードも何もない。しかし感じるのだ。彼の余裕を。なまえから見ればどう見ても不利な状況にも関わらず。 珠のような汗が帝王の白い肌を伝う。熱さに飲み込まれそうな亮は苦しげに息を吐いた。 「オレの、ターンだな」 ざわめく観衆もその異変に気付いたのかスッと声が引いていった。 そしてカードを一枚、デッキからドローする。 鋭い眼に確信にも似た光が宿る。その瞬間をなまえは見逃さなかった。 「いくぞ……!手札から死者蘇生を発動。墓地よりサイバー・ドラゴンを特殊召喚」 亮の代名詞とも言えるモンスターが登場したことで会場は再びざわめきに包まれる。だが、亮の傍らに控えるサイバー・ドラゴンの攻撃力は2100。これだけでは攻撃力2400のモンスターには対抗し得ない。 「そしてプロトサイバー・ドラゴンを通常召喚する。さらに手札からパワーボンドを発動!」 もう逆転劇は止まらなかった。なまえの全身が震える。 残された切り札がそっと亮の指を離れた。 「手札のサイバー・ドラゴンと、融合!現れろ、サイバーエンド・ドラゴン!」 亮の手札はゼロ。相手の場には壁モンスター。守備力は100。だが、パワーボンドの効果により攻撃力8000に達したサイバーエンドにはもはや敵ではなかった。 「エターナル・エボリューション・バースト!」 亮の声が響くが遅いか。 轟音とともに全てを蹴散らす閃光が放たれた。 「勝者、丸藤亮!」 その場に居た者全てが沸いた。己の敗北に呆然とする対戦者となまえを除いて。 華麗なる勝利に唖然としていたなまえは気づいた。膝まづく相手の生徒を見下すでも蔑むでもなく。帝王は手を差し伸べていた。良いデュエルだった、と。 (これが……リスペクトデュエル) あまりに見つめていたからだろうか。視線を感じたらしい亮が振り向いた。 「今、誰かが……いや、気のせいか」 勝利に沸く観衆の中になまえの姿は既になく人ごみに紛れて消え去った後だった。 色香に惑わされた乙女 |