真夜中に目が覚めた。何かが訪れる気配がしたからだ。しかし肝心の体が動かない。はっきりとした意識はある。だが、なまえの目蓋は重く閉ざされたまま。 元々なまえの部屋を訪問する者は多くはない。それもこんな夜更けに来客などあるはずがなかった。 きちんとかけてあったはずの鍵は意味をなさず、扉は簡単に開いた。 声が、聞こえる。間違いなくなまえは知っていた。 (でも、違う) それは言い表せない違和感だった。しかし静かに近づいてくるそれはなまえの心をくすぐった。 「やあ、なまえ」 ベッドがギシリと音を立てた。ヨハンは寝ているなまえの顔を覗き込むように腰かけた。 「きれいな髪だ」 さらさらとやさしく撫でられる。これは現実だろうか。段々とぼんやりとしてきた頭で考える。得体のしれない恐怖はなく、まさに夢心地だった。 「なまえ……」 フッと光を遮る影と唇のあたたかさを感じた。と、同時になまえの目はヨハンの姿を映した。 「起きたのか?」 いきなり目を明けたのにも関わらず、ヨハンはさして驚いてはいないようだった。それともなまえに意識があることが分かっていたのだろうか。 その暗い微笑みを見てなまえは確信した。いつものヨハンではないと。黒いフードを身にまとう彼に宝玉獣の力は感じられない。目を見つめれば闇が広がっていた。 言葉を発することは敵わない。体はなまえのいうことを聞こうとしなかった。まるで外部から何かの力が働いているかのようだ。 「明日は早いんだろう?ほら、おやすみ」 大きな手がそっと目蓋を閉じさせる。そして、ヨハンはなまえの額に軽くキスをした。 なまえはこのあたたかさ、包み込むような優しさには覚えがあった。 「明日、もう一度会おう」 頭の中に直接吹き込まれたようにヨハンの声が何度も何度も反響する。その次の瞬間、なまえは眠りに落ちていた。 「なあ、なまえ。俺はこの闇に取り込まれるわけにはいかない。だから、協力して欲しい」 その葛藤はなまえには届くはずもなく。ヨハンは寝息を立て始めたなまえを強く抱きしめた。 悪魔の置き土産 |