「旦那さま、お茶をお持ちしました」


「ああ」



亮は素っ気ない返事して紅茶を口にした。
ちっともなまえの方を向こうとはしない。
フリフリのエプロンに落ち着いた黒のスカート。頭には可愛らしく大きな白いリボン。エドに言われたように準備した。きっと亮は喜ぶだろう、という言葉を信じて。



「あの、」


「……」


「どうでしょうか?」


「悪くは、ない」


「そうですか。それは良かったです。では、クッキーもお持ち致しますので少々お待ちを」



ぺこりとお辞儀をして再びキッチンに戻る。反応が薄いからだろうか、誉められたわけでもないのにその言葉を嬉しく感じてしまう。
キッチンに行くとお菓子の焼ける良い香りがオーブンから漂ってきた。火傷をしないようにサッと取り出せば美味しそうなクッキーが所狭しと並んでいた。



(まあまあの出来かな)



なまえは亮のように器用ではない。だから亮にバレないように事前に何度か練習をしたのだ。
クッキーはレースペーパーの上へひとつひとつ丁寧に並べていく。旦那さまには失礼があってはいけない。なかなか見映えは良いようだ。



「なまえ」


「はい。如何なされまし、た」



振り向く前に声の主に抱きしめられ動けなくなった。



「旦那さま?」


「止めろ」


「……っ」



耳元で話されてなまえの思考は回らない。



「お気に、召しませんでしたか」


「……」



なまえを抱く腕に力が入ったかと思うとふわっと体が浮いた。



「だ、旦那さまっ!降ろして下さいませ」


「断る」


「えっ」



沸き上がる熱に浮かされて意地悪い笑みを湛える旦那さま。抱えられたまま向かう先はふかふかのベッドがある寝室。



「煽るお前が悪い」


「そんなっ」


「誰に吹き込まれたか、たっぷり聞いてやろう」



ちゅっと優しくおでこにキスが落とされた。







旦那さまごっこ

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