長編小説 | ナノ
『あのね、私、運命の人と出会ったの』
純白のウエディングドレスに身を包んだ花嫁。
こちらを振り返り見せた微笑は、その手元に携えた花束より、その胸元に飾られたダイアモンドより、美しい。
『バンビ、今までありがとう』
そう言って、名前は目の前に続くバージンロードを歩いてゆく。
"運命の人" の元へ進むその足取りはゆっくりで、引き止めようとすれば簡単に出来るはずなのに、
オレの手は届かず、声は空気を揺らさない。
行くな。
ソイツは運命の人なんかじゃねェ。
お前にはもっと… ___
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「……っ……!」
「うわっ! どうしたの、シカマル? 」
はっと目を覚ましたら、そこはいつも通りの教室。
机に突っ伏して眠っていたところから突然勢いよく起き上がったものだから、隣の席のチョウジは驚いて目を丸くしている。
「……あー、いや。何でもねぇ」
「それならいいけど……」
アカデミーの教室内にも関わらず、チョウジはまたボリボリとポテトチップスを貪り始める。授業はまだ始まっていないから、ギリギリセーフなのだ。
何つー夢見てんだ、オレは……
先程の夢を思い出して、はぁとため息を吐く。悪夢でもないのに 背中には嫌な汗を掻いている。
そもそも、思い返してみればあの夢にはツッコミどころが多すぎる。
第一に、名前はまだまだ結婚出来る歳じゃない。
それに、オレが居た立場は完全に父親のそれだ。
オレが必死に引き止めようとしていたことも笑える。アイツが将来誰とくっつこうがオレには関係ねーし……いや、全く関係ないことはねーが、オレが口を出すことじゃないことは確かだ。
こんな夢を見てしまったのは、恐らく数日前のアレのせいだろう。
"一目惚れをね、しちゃったんだ!"
"あれはきっと運命だよ〜"
結局その相手はただの犬だったわけだが。あの時のオレの必死な様を思い出す度に頭が痛くなる。
もう、忘れよう。
無意識に額を押さえていたら、教室の扉が開いてイルカ先生が中に入ってきた。
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