07.事の始まり21/21
「いるよ…依頼主ならここにさ…」
その言葉を聞いた次の瞬間、銀時はあまりの恐怖に、そのままドサりとその場に倒れてしまった。
「え…ちょ…おにいさん…?」
幽霊のように真っ白な顔をした少年は、気絶してしまった銀時を見て慌ててそばへと駆け寄った。
声のかけた方まずかったのだろうか。
少年は困ったように眉を寄せると、銀時の身体を引っ張り、とりあえず廃墟寸前の倉庫へと引きずり込んだ。
重い扉を数センチだけ隙間を残してしめる。
そのまま床に寝かせた銀時から離れ、壁を手探りで這うようになぞり、スイッチを探した。
ここにあるはずの場所へと手を伸ばし、どこだどこだとあちこちに手を滑らせる。
そのうち硬いものに手をぶつけ、それがスイッチであることを悟った少年は、力を込めて少々重たいボタンをおした。
途端、バチッという重々しい音と共に、暗かった倉庫に明かりが灯る。
「う…ぅ、すたん…ど…?」
その音に意識を浮上させたらしい銀時が小さく声を漏らし、まぶたを持ち上げた。
少年はほっとしたようにそばに駆け寄ろうとして、やめる。
先ほどのように二の舞になってはいけないので、どうしようかと頭を回転させた。
そして、声をかけることにしたのだ。
「さっきは驚かせて…ごめんなさい…僕幽霊じゃない…です」
「ぎゃああああああああああああああああああ」
突然の声に思わず叫び声を上げて逃げるように身体を起こした銀時。
少年はその声にビックリして思わず後ずさる。
「あれ…人間?」
「はい…」
ようやっときちんと確認ができた銀時は、相手が少年だとわかると途端に、頬を赤く染め上げ、あたふたと立ち上がった。
「あ、あー人間ね、はいはい。んで、お父さんかお母さんはいる?それと、さっきのは悪れてくれるとありがたいなー十円あげるからさ」
少年は、ふふっと小さく笑うとそんなのいらないとったふうに首をふり、そして銀時へと近づいた。
その顔は病的なまでに青い。
「黙っててあげるから…おにーさん…万事屋でしょ…?僕の…家族助けてよ…」
「家族…?」
「うん…家族…お父さんと、お母さんと…妹がいるの…みんな病気なの…ね、なんでもしてくれるんでしょ…?助けてよ…」
銀時はどこかただらならぬ少年の様子を見て、少しだけ話を聞くことにした。
そばにあった手頃なサイズのドラム缶へ寄りかかり、詳しく聞かせろ、とだけ伝え少年へ続きを促す。
少年は、その場にヘタリ込むように座ると、重々しく口を開き言葉を紡いた。
「あのね…僕たち家族四人は…萩にくらしてたの」
爽やかな風が吹き、高いビルなんてものはどこを見渡しても無く、所謂田舎というところで家族四人、仲良く過ごし、健やかに育った少年・草下直は、長州藩のとある武士の家に生まれた。
武士や、身分の高い地位のところに生まれた子供たちは、皆学を学びに、明倫館へと通うのが義務である。
直も当たり前のこと、そこへと通っていて毎日剣道や学問を学んでいた。
そこで噂されていたひとつの話がある。
それは、数年ほど前に明倫館に通っていた生徒の一部が好んで通っていたという、村塾の噂についてだった。
その村塾はいまでは禁忌とまでされているわけなのだが、明倫館などに通う生徒たちにとっては、退屈な日々の刺激になりうる材料で、いつもいつもその話で、教室はもちきりだった。
萩でも何食わぬ顔で町を徘徊する夷狄(天人)の前で言おうものなら、藩自体の存続が危ぶまれる今の世の中で、スリルに満ちたその話を直も好んで毎日のように耳にしていた。
そんな時である、一人の少年がとある話をし始めたのだ。
それは誰も聞いたことがない噂で。
直や、その他の生徒たちは食い入るようにその少年の周りに集まり、その噂に耳を傾けたのだという。
「僕らが夷狄が町を徘徊するのを知りながらも、黙って学問を学び続けちょるのは、幕府のお偉いさんがたが腰抜けじゃちゅーことは皆もしっちょろう?」
「おお、知っちょる。そんなん当たり前やないか」
「まあ聞け、それでな。そんな幕府に見かねた攘夷志士たちが、もう一度攘夷戦争おこそーちゅうて、いま準備をしよると、僕は昨日きいた」
「それがどうしたって言うん?そんなん私も知っちょるよ?」
「でもどうせ、幕府側には手はたわんって。そんなん誰でも知っちょることなのに、今更あがいたって変わるわけない。そんなことしても僕の親父は喜ばん。死んでいった仲間も喜ぶわけないって、昨日話してるの聞いたんじゃが」
そうだそうだ、と話に耳を傾けていた少年少女から声が上がる。
話をしていた少年は、まあ焦るな、とこほんと咳払いをすると声を潜めた。
「なんでも以前の攘夷戦争の時に、天人から奪った武器があるんじゃと」
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久しぶりの更新です。
続きます、まだまだ続きます。
途中で歴史の話と混じってしまってごめんなさい。
明倫館は長州藩に本当にあったものなんです。
奇兵隊で有名な、高杉晋作は武士の出だったので、ここで学んでます。
その途中に、松陰先生のところへ方向転換しちゃうんですけどねw
生徒のみんなが「僕」「僕」っていってるのも、実は松陰先生の影響。
そのあたりは詳しくは書きませんが一応、最後のセリフのところは
山口弁だったので、標準語に書き直したの上げておきます、
わからない部分があった方は下記を参照ください
(標準語バージョン)
「僕らが夷狄が町を徘徊するのを知りながらも、黙って学問を学び続けているのは、幕府のお偉いさんがたが腰抜けだからということは皆も知っているだろう?」
「おお、知ってる。そんなの当たり前だろう」
「まあ聞け、それでな。そんな幕府に見かねた攘夷志士たちが、もう一度攘夷戦争起こそうと言って、いま準備をしていると、僕は昨日きいた」
「それがどうしたって言うの?それなら私も知ってるよ?」
「でもどうせ、幕府側には手は届かないよ。そんなの誰でも知ってることなのに、今更あがいたって変わるわけない。そんなことしても僕の親父は喜ばない。死んでいった仲間も喜ぶわけないって、昨日話してるの聞いたのだけど」
そうだそうだ、と話に耳を傾けていた少年少女から声が上がる。
話をしていた少年は、まあ焦るな、とこほんと咳払いをすると声を潜めた。
「なんでも以前の攘夷戦争の時に、天人から奪った武器があるらしい」
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