鬼の休日21/21
生憎とその日は気分が悪かった。
外はうっとおしいぐらいの晴天である。
俺は冷たい床に寝転び、熱を持て余していた。
何をしたわけでもないのに、節々が痛み、時折ぼーっと視界が意思とは関係なく固定される。
酒を飲んだわけでもないのに、ふわふわと覚束ない足取りに、いつか正確には覚えていないが、前も同じような感覚に支配された事があった、と遠い所で思った。
それは戦火が上がる、ある日の暮れの出来事だったと思う。
向かって来る最後の一人を斬り捨てて、俺は刀を振って今しがた付着した血を飛び散らした。
幕軍2000に対し、こちらは200にも満たない、それも皆訓練されたわけではない一般人がほとんどで。
奇跡が起こらない限り、負け戦になることは誰の目にも明白だった。
事実、誰も斬る事が出来ずに殺されてしまった者も何人かいる。
皆、地面に倒れふして、先程まで血を通わせ人間だった肉塊を掴んで涙を流し、必ず夷狄を討ち取ってやるとつぶやいていた。
そんな中俺はぼーっと刀を見つめて湧き上がってくる熱に首をかしげる。
一体この感覚はなんだろう?と。
いつも感じている人を斬ったあとの独特の倦怠感とは違う、と考えてみる。
が、あまり自分のことに関して関心のない俺にとってわかるはずもなく、自分を呼ぶ仲間の声に、「いまいく」と短く返事をして、思考を打ち切ったのだった。
戦場あとから歩いて30分程でようやっと陣営にたどり着く。
着いて早々、本日は待機と言い渡されていた高杉とその部下達と、桂とその部下たちが駆け寄ってくる。
聞きたいのは結果だろう。
「成功って言っていいのかわかんねぇけど、まぁ成功なんじゃないの」
ちらっと後ろに控える負傷者と死者に視線を飛ばす。
桂はそうか、と呟くと俺の顔を覗き込み、どうした?と問いかけてきた。
「なにが?」
「いや、今日はいつもよりちょっと様子が…」
桂と高杉と坂本は、俺が人を斬ったあとに襲われる倦怠感をしっている。
バラしたわけではなく、バレたのだ。
妙に付き合いが長いと、相手に関する感覚も鋭くなるらしい。
「そんなん俺がしるわけねーだろ」
変なのはわかるけどなー、と軽く答えて自室へそそくさと引き上げる。
相変わらず変な感覚は収まることを知らず、それどころか徐々に違和感は大きくなっていった。
夜も更け、あちこちから武勇伝を酒の肴に話すものがいなくなり、シーンと静まり返った頃、俺は違和感に耐えられず起きだして、酒を取りに廊下へと踏み出す。
途端、ぐわんぐわん揺れた視界に、ふとまゆを寄せた。
「っとにコレなんだよ…」
気持ち悪い感覚に、こっそりと足音を忍ばせ酒を取りに行き、外へ出る。
夜風がいつの間にか熱を持っていた身体に気持ちいい温度の風を運んできて。
俺はその気持ちよさに酒を煽り、目を閉じた。
ひんやりとした酒が喉を潤して、ふうと息を吐く。
目を閉じれば、今日の戦のことや過去の戦のことが走馬灯のように流れていった。
木にもたれかかり、違和感を酒で忘れ気持ちの良い風に思わずウトウトとする。
あー気持ちがいい、と酒のチカラで忘れた違和感から逃れようと、あったかい夢へ逃げてみた。
ふわふわとした夢は、疲れていたらしい身体を癒すかのようにあの人の手を俺に差し出してくる。
守れなかったあの人の手へためらいがちに己の手を伸ばしてみるが、途中でやっぱり握れない、と手を引っ込めた。
『どうしたのですか?』
あの人の声が響く。
俺は嫌々と首を振った。
『まだ…後悔しているのですか?』
俺は泣きそうな顔を隠すために下を向く。
『…気にしなくて良いのですよ?私は…』
そしてあの人言葉が切れ、俺は慌てて顔を上げた。
「オイ!」
唐突に降ってきた声に、カッと目を開く。
そして、どアップで写った人物の顔に、安堵したように再び目を閉じた。
しかし違和感に再び目を開ける。
「…何、ここどこ」
さっきまで自分は外にいたはずだ、と俺を覗き込んだ人物・高杉に問う。
なぜか布団に寝かされ、額の上に冷たいタオルが載っていた。
「外で、熱出したバカが酒呑みながら寝てたから連れてきただけだ」
「熱?」
何それ?とでも言うように首をかしげる。
「風邪だろうよ、ったく。おめェは自分のことになると本当、とことん鈍いんだなァ」
呆れたような顔をする高杉の目は心配そうな色を灯していて。
俺は熱で火照った腕を伸ばし、高杉の頬に触れた。
そこで俺は目が覚めた。
「あれ…」
いつの間にか、布団に寝かされ、服は寝巻きに変わっている。
「目ェさめたか?」
たった今夢か回想かわからないもので自分が風邪をひいていると認識したところで上から、聞きなれた低い声が落ちてきた。
「晋助…」
「風邪だろうよ、ったく。おめェは自分のことになると本当、とことん鈍いんだなァ」
そして、同じセリフがこぼれてきて、俺は思わずクスリと笑をこぼす。
「あァ?」
「いや…同じようなことがあったなーって」
「…昔からてめェは自分のことに無頓着過ぎるんだよ」
高杉の手が俺の髪をなでる。
そうだっけ?と目を細めて答えれば、もう少し自分のこと考えろバカと、高杉に言われてしまった。
そんな暑い日のことである。
END
============================
ただ、風邪ひき高銀書きたかっただけなのに
過去を交えてやってみました←
やっちゃった感満載です(´;ω;`)ウゥゥ