「おかえり。遅かったな」
ただいま、とか
「いや、おかえりじゃねぇし。なんで居るんだよ」
学校が終わり買い占めたマンションへと帰れば、いつも俺が使ってる部屋にはすでに神崎が居た。俺がいつも座る革の黒い座り心地の良いソファの上で寝転がり、学校帰りに買ってきたのだろう、ポテチをぼりぼりと食べていた。
一体何度そのソファの上で食い物を食うなって言っただろうか。ソファの上に散らばった食べカスを片付けるのは誰だと思ってる。ハァ、と溜息を吐いた。
「お前ん家学校から近いし、すぐ部屋暖まるからよ」
快適快適、なんて適当に言いまたポテチに手を伸ばす神崎。確かにここの鍵をあげたのも自分であり、構わないのだが。
「あ、ヨーグルッチは?」
「そこの冷蔵庫に入ってる」
「なんだ、ついにてめぇもヨーグルッチの魅力に犯されたか?」
「ちげーよ。てめぇがヨーグルッチねぇと機嫌悪くならストックしといたんだよ」
溜息混じりに姫川が言えば、神崎は挙げ句の果てに「とってこいや」と言いはじめた。なんつーワガママな奴だ。この俺に向かって。
姫川は冷蔵庫とは反対に神崎に近付きぎしり、と音を鳴らし体重をかけ神崎に顔を近付けた。近い、と神崎は眉をひそめる。
「てめぇ、んななめたことばっか言ってっと、犯すぞ」
「…その前に、言うことあるだろ?」
「ハア……?」
さて、なんのことだろうか。何を言い忘れているだろうか。
神崎は寝転がった覆いかぶさる姫川のサングラスをとり、近くにあるテーブルに置いた。レンズ越しでなく互いに見つめ合う瞳に、まるで情事のようでドクン、と胸が高鳴った。
「ただいま、神崎」
二人の唇が重なった。
――――
日常的な二人が好きです
2011.12.04