大砲娘と世界征服論 〜もしもIf〜 | ナノ



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「おい、葵! お前も参加しろ」
「あだっ」
 
 人が気持ちよく寝ている所を拳骨で叩き起こしたのは諏訪だ。
 寝ていたソファから落ちそうになった私を支えてくれたのは堤で、堤はこの隊のおかんポジションだと思ってる。
 
「えー、ランク戦の作戦について? いつも通りでいいんじゃない。と言うか、私徹夜明けなんだけど」
 
 ラボに籠っていたのを見兼ねた鬼怒田さんが今しがた解放してくれたばかりだ。口先を尖らせて抗議の声をあげれば、諏訪は一瞬狼狽えた。しかし、隊員の一人だと大声で言われてしまえば作戦に参加しなくてはいけないだろう。
 ――ランク戦が開幕されたばかりで、うちの初戦ということもあり隊長の諏訪は気合いが入っている。勿論それは私も同じだけど、如何せん眠い。
 
「と言うことで私は寝ます。膝枕して笹森ぃ」
「ええっ!? あ、はい?」
「笹森にたかるなよ葵。大体、作戦会議があるのを知ってて雷蔵について行ったお前が悪いんだからな!」
 
 これ以上口論をしても結果は見えているので、渋々テーブルに近づいた。
 うちの構成員はオペっ子の小佐野ちんを入れたら5人だ。今回の相手は荒船隊と玉狛第二という4人編成のチームなのでうちが一人多くなることにフェアじゃないと感じてしまうけど仕方ない。人数も戦略の内ってね。
 
「初戦から玉狛第二かー。未知な相手、いいね」
「葵さんは玉狛第二がどう動くと思いますか?」
 
 堤の質問に対して、周りの視線が私に集中する。
 それまで呆れて私たちを見ていた小佐野ちんの視線すら奪ってしまう私。うーん、罪な女だな。
 
「地形選択は彼らだし、彼らはノーデータに等しい。それを考えれば割と大胆な作戦に出るとおもうんだよねー」
「うちと荒船隊のデータは漁れば幾らでもありますもんね」
「それを踏まえた上での作戦を立ててくるだろうねえ」
 
 聞けば、隊長の三雲くん?は蒼也同様に熟考して作戦立てするタイプっぽいし、どう攻めてくるのか……そういうのも含めて戦ってみたかった相手なのでうれしいと言えばうれしいけれど、データが少ないのは中々の痛手だ。そして更に、うちにマップの選択権がないのも痛手だったりする。
 
「私以外のメンツを考えると市街地Cはやめてほしいよね」
 
 空閑くんのデータに目を向けつつマップ選択をどうするのか推測してみようかと思案したものの、気候もいじれるしパターンは推測すればキリがないのでやめた。
 諏訪の嫌いなマップを挙げれば彼は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「ったりめーだ! あんなクソマップやってられっか!」
「けど、向こうには葵さんに負けず劣らずの大砲娘が居るって聞くし、可能性としてはありえますよね」
 
 笹森の冷静な言葉に隊室内に僅かばかりの沈黙が訪れる。
 困った時は堤と笹森の視線が諏訪へ向く。そんな諏訪は私を見るので、諏訪隊の参謀としては士気を上げてあげなければという使命感に駆られる。
 
「市街地Cのマップは玉狛第二としてもリスクが高すぎる。荒船隊に利があるマップを選ぶとは思えないよ。それに、チームワークの良さはどう考えてもうちがダントツでしょう。近距離戦の集中火力では負けなしだと思うよ」
「っ、だな。葵の言う通りだ! 今まで通りで荒船隊も玉狛第二もぶっ潰す!」
 
 諏訪にエンジンが掛かったようだ。
 大声を張り上げて仲間と己に喝を入れる様子を見て堤と笹森も勇気づけられたようだ。
 そのまま3人は実践とばかりにランク戦室へ向かってしまい、隊室に残されたのは私と小佐野ちんの2人だ。
 冷蔵庫からプリンを取り出して蓋を開けていれば、小佐野ちんからの視線を感じる。
 
「どうしたのだね小佐野ちん」
「さっきの、何パーセントくらい嘘?」
 
 あら、小佐野ちんは相変わらず鋭いのね。
 男共は単純で行動派だけど、私たちは上手く出来ていないようだ。
 その力があってこそ此処まで上り詰めてきたのだから諏訪たちの力と私たちの力が合わさっての諏訪隊と言えるだろう。
 
「うーん、嘘じゃないけど、市街地Cは穴場として選択される可能性がある。私の推測に三雲くんが上手く乗っかってきてくれるかだけど……分析したいし、データがもう少し欲しいなー」
 
 私の“期待通り”の動きを彼はみせてくれるだろうか。
 ほくそ笑む私を見て、素早くキーボードになにかを打ち込んだ小佐野ちんはパソコンを反転させて私に画面を見させる。
  
「ランク戦にあった戦闘履歴。隊長の三雲、エースの空閑分はあったけど」
「さっすが小佐野ちん! 仕事早くて助かるわー」
 
 それじゃあ、男共は放っておいて本命の作戦会議でも始めますか。
 
 
成功の裏側
 
捕捉:
諏訪隊では大砲娘は参謀ポジション。
行動派の諏訪に対して大砲娘は頭脳派で諏訪隊を支える。
諏訪の行動力は隊員である堤、笹森の憧れでもあり最も信頼におけると知っているからこそ、持ち前の頭脳を用いて上手く諏訪を上げ、結果として隊員たち全員の士気を上げるように動く。
小佐野と大砲娘はその裏で緻密な作戦パターンを練り、集めた情報を元に諏訪たちの行動を上手く誘導する。

実際のランク戦→