※音駒高校の学生生活に対してのねつ造多いです。 ※このお話しのテーマは「友人未満、恋人未満」です。一応ハッピーエンド予定。
中学卒業式当日。 右手には卒業証書の入った筒を持ち、スクールバックの中には貰いたての卒業アルバムを入れていた。 その卒業アルバムにはフリースペースの欄があり、周囲に促されるままを寄せ書きとして使うことになった。今までの3年間を共に過ごし、これからも会えるやつ、恐らくもう会うことのないやつの名前が並ぶのは、卒業に実感がない今見ても面白いものだ。 自宅に帰ってすぐにソファに寝そべりながら寄せ書きを見た後、一枚一枚とページを捲って写真を見ながら当時の行事を思い出すのだ。 写真の中には3年間同じ学校に通っていたとは思えないくらい知らない顔ぶれが並んでいる写真もある。流すように目を通していた時、一枚の写真に視線が止まる。 目が奪われるという言葉はきっとこういう使うのだろう、冷静な頭でそんな下らないことを考える。 中学2年の運動会。リレーの待機選手としている面々のピースサインの写真から目が離せない。同じクラスメイトの顔も映っている。人差し指と中指をめいいっぱい広げたピースサインを作って綻んだ笑顔を見せるクラスメイトの隣は緊張を顔に滲ませていた。そんな中、俺は一番端に座る男に釘付けになった。 緊張を表情として浮かべる訳でもなく、ただただシャッターチャンスに映りこんだだけの表情だ。少し面倒くさそうに、けれどその隣に映る生徒に促されるように無理矢理作った不器用な笑みを携えている。 ――知っている、気がする。いや、知らない訳がない同学年の男だ。実際、クラスメイトの女子が名前を紡いでいるのを聞いたことがあるし、廊下で何度もすれ違っている。 けれど、驚くくらいに名前が出てこない。 喉に張り付いた男の名前が飛び出すことを拒んでいるかように、上手く苗字を紡ぐことが出来ないのだ。 慌ててページを捲ってクラス毎の写真に目を配せる。 「……逢沢、翼」 証明写真のように四角切り取られた写真の下に記載されている名前を声に出してみる。 その時、初めて名前を呼んだことに気付いたのだ。 …… ――音駒高校、入学式。 開花の遅れた桜は蕾のままで俺らを見下ろす。天気は曇天よろしくと言いたげで、家を出る時にはビニール傘を持っていく羽目になった。 一覧として張り出されているクラス名簿を見て、自分のクラスを知った。新入生は真っ先に教室へと案内されるようで、知らない顔ぶれと気まずい時間を過ごすことになる。 担任と思える教師がやってきて、名前の順に並ばされた。淡々と過ぎていく時間に身を任せながら、この当時から既に周囲より頭一つ分飛び抜けた背丈を持つ俺は、特に大した意味もなく辺りを見渡した。 女子の群れを見れば、既に仲の良い相手を作って小さく雑談を繰り広げていた。女子はいつだって集団行動の塊だ。その点、男の友情なんて薄っぺらいものなので、入学式だからとはりきる必要性はなかった。 「(あいつら、元気にやってるかな)」 家から電車を使って片道20分。遠くも近くもない此処を選んだのはバレー部としての活動を続けたかったから。高校の大舞台であるインターハイで全国を狙える学校に足を踏み入れたかったからだ。 自分の目指したい夢を優先させて、中学のクラスメイトたちがあまり進学していない音駒に入学した。それを少し後悔してしまうのは、今の現状で自分が一人であると実感させられるからだろう。 部活が始まれば、きっとチームメイトが出来る。自分の性格を考えてもクラスメイトたちと和気藹々出来る自信があったが、寂しさがないとは言い切れなかった。 「新入生代表――」 体育館へ足を踏み入れて、いつの間にか新入生代表までに至っていた。ぼんやりしていた自分が教師に目をつけられていないかそれとなく見渡していた時、不意に1ヵ月くらい前に耳にした名前が飛び込んできた。 「逢沢翼」 「はい」 席を立ち、教壇へ上る後ろ姿を見忘れた訳ではなかった。色素の薄い髪と瞳を忘れるはずがなかった。 1ヵ月前、自分が卒業アルバムで見つけた、咄嗟に名前の言えない同学年の男。写真と朧気な記憶で構築されたそいつが動く姿は新鮮なような不思議な感じがした。 目が男の行く先を追う。教壇の前で立ち止まって小さく息を吸う姿を見た時、無意識の内に自分も息を吸っていた。 よーい、どんっ 20160903
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