エンドロールに鼻歌を | ナノ


君が欲しかっただけなんだ
 
 
「好きだ」
 
 短い言葉に自分の想いを乗せた。
 短い告白でしか本気であることを信じてもらえないと思ったからと言う建前と、飾れるような言葉をいくつも持ち合わせていなかったと言う青臭い結果からだ。
 目の前に立つ相手をとらえて、愛の告白というものを告げてみる。心臓は嫌な音を立てて軋むし、手に滲んだ汗は気持ち悪いくらいに現実であることを教えてくれるので、告白はするものじゃないなと緊張に反して苦笑いすらこみ上げてくるのだ。
 目の前の男が唖然とすることも予想の範疇であったのだ。
 
 ――鈴谷を恋愛的な意味で好きだと理解したのは今から数週間前に遡ることになる。
 
 屋上で鈴谷の本音交じりの言葉を聞き、距離が少し縮んだ気がした。鈴谷の表情、仕草、声を愛おしいと感じてしまったのだ。
 隠すことも偽ることだって出来ただろうその感情を本人に向けて吐露したのは、正々堂々とこの感情に向き合いたいと思ったからだ。
 
「なに、バカなことを」
「嘘じゃないからな」
 
 目の前に居る鈴谷は見るからに狼狽えていた。
 少し怒ったように眉を吊り上げて、口元を引き締めている。しかし、瞳が僅かに揺らぐ様子を見て、俺の言葉の真偽を探っていることに気付く。
 我儘な言い分だろう。自分の感情に偽りたくないという理由で年下の彼に迷惑を押し付けているのだから。
 ――しかし、告げなければ伝わらない思いがあることも知っているのだ。
 
「男同士だからとか、そんな世間体は気にしない……と言えばウソになるかもしれないし、俺だって今まで男を好きになったことはないからどう転んでいくかわからない。けど、お前を大切に思いたい気持ちに嘘はないから」
 
 一歩前に踏み出すと、前に居る鈴谷が僅かに身を引いた。その仕草に苦笑いを零してしまう。
 もしかすれば、返事はもらえないのかもしれないし、気まずさで隊の動きに支障が出るかもしれない。よくよく考えてみれば、中々突発的な行動をしてしまったのかもしれないと後先見ることなく行動した自分の計画性のなさに呆れてしまうが、後悔はない。
 ひとまずこの場から離れようかと踵を返した時だった。
 俺に向けて小さな声がかかるのだ。
 鈴谷のほうに目を向ければ、戸惑いながらも真っすぐと俺を見る。
 
「少し、時間をくれないか」
「え?」
「あんたの……気持ちに嘘がないと分かったから、そんな相手をないがしろには出来ないからな」
 
 まさかの言葉に瞬く俺を見て、少しだけ微笑んだその表情はいつも通りの鈴谷であった。
 しかし、すぐに視線は外されて、この場を後にしようとするのだ。

 
君が欲しかっただけなんだ
 
 告白をしたことに後悔はなく、寧ろ、相手に自分の感情をぶつけれたことが良かったと思う。けれど、考えると言いこの場を立ち去った鈴谷の後ろ姿を見て思ったことは、この告白の結末がどうなるのかという一抹の不安であったのだ。
 押し付けるように告げた告白に対して、自分の願う返事を欲してしまう俺はどれだけ我儘なのだろう。
 
20160816