大砲娘と世界征服論 Another | ナノ



変わらない関係

 
 
「おわったー!」
 
 本日の防衛任務が終わりを告げた。すぐさまトリオン体を解除して大きく伸びをした私は我先にと本部への帰還を図る。少し離れたところにいる蒼也たちもトリオン体のまま此方へ来るだろうから良いタイミングで本部への扉を潜ることが出来るだろう。
 
「あ、みかみー、これから予定ある?」
「いや、ないですけど。なにかありましたか?」
「ならごはんいこう! ごはん!」
 
 無線を通じてみかみーとごはんの約束を取り付ける。
 今日はハンバーグとかの気分かなー。いや、うどんとかも捨てがたいし、最近パスタ食べてなかったなあ。指先を立てながら食べたいメニューを考えていれば、後ろから蒼也たちが近づいてくる気配を感じ取った。
 
「風間はなに食べたい?」
「その前に報告書を仕上げないといけないだろ」
「葵さんっていっつも食べることしか考えてないよね」
「まあ、動いた後は腹が減るからな」
 
 横目で私を捉えながら追い抜かしていった蒼也と、その後に続くきくっちー。うってぃーとみかみーの言葉が私をフォローするようにかかる中、私を追い抜かした彼の隣に小走りで並んだ。
 
「けどさ、けどさ! 今日は菊池原も歌川も予定ないんでしょー? なら風間隊みんなでごはんいける貴重な機会じゃん」
「……行かないとは言っていないだろう」
「なら報告書貸して! 私が忍田さんに直接報告してくる。10分で終わらすから皆は玄関前に居てね」
 
 紙面に起こそうとする蒼也に声を掛けて、本部長室までの道を駆けだした。
 
「葵さんのスイッチってわかりやすいよねー」
「「……」」
 
……
  
 宣言通り、10分で伝えました。しかも口頭で。
 報告が2分、残りの8分は風間隊みんなでごはんに行けるので! という私の喜びの報告だ。忍田さん苦笑いしてたなーと思いつつ、玄関前で待っていた彼らにそのことを伝えれば、なぜかきくっちーに文句を言われてしまった。ツンデレの心境は分からない。
 そして今現在、私はみんなと多数決をした結果、定番のファミレスへ足を運んでいた。いやあ、学生の味方よねファミレス!
 
「私これがいい! デミオム!」
「あれ、ハンバーグって言ってませんでしたか?」
「こういうのはピンッときたのを選ばないとねー」
 
 ふんふんと鼻歌混じりで食べたいものを選択した私。それぞれの食べたいものが決まった頃、ベルを押して店員を呼ぶのは蒼也だ。
 このファミレスは家から近いこともあってよく来るけれど、こうして風間隊として来たのは久しぶりだ。高校生の彼らと大学生の私たちじゃ生活リズムも違ってくるし、ちょっと前まではテストシーズンということもあり全員で顔を合わせる機会も少なかった。
 ドリンクバーでりんごジュースを選んできた私はちびちびとそれを飲みながらデザートメニューを見る。なんでメニュー表って見てるだけで幸せな気持ちになるんだろう。
 
「あ、そういえばテスト結果どうだったの?」
 
 うちの隊って割と勉強出来る人が集まってるよねー。
 高校生組の中でも太刀川隊は中々酷いって聞くけど、みかみーもうってぃーも真面目だし、きくっちーもやれば出来る子だしね。要領良いし。
 案の定、テストの点数は全員平均点以上。ほんと、ボーダーでの実力も上位組だし、成績も上位組だし、うちの隊安泰だわー。忍田さんの機嫌が良かったのもうなずける。
 運ばれてきたオムライスをスプーンで掬って食べる私はかつ丼をたべるうってぃーとパスタを食べるみかみーからテストの感想を聞く。普段から私とみかみーが会話の中心で、男性組は相槌を打ったり毒を吐いたりするくらいだ。蒼也もきくっちーもぺらぺらと話す方ではないし。
 テストの話を聞きながら彼らの私生活を小耳に挟めば、知らないこともたくさんあるんだなあと思う。まあ、ずっと同じ時間を共有している訳じゃないから当たり前なんだけど、大学生の私たちと高校生の彼らでは僅かながらの壁がある訳だし、同級生と話している彼らは新鮮だし、若いなーと思う。
 
「(あれ、そう考えたら私たちっておばさん臭く見えてるのか? それは嫌だなー)」
「葵さんたちの学校生活ってどんな感じだったんですか?」
 
 辛さを忘れるように無心でオムライスを食べ進めていれば、みかみーが私と蒼也を見比べながら質問をしてきた。うってぃーたちも気になっていたのかちらりと私たちを一瞥するのだ。
 
「うーん、高校生ってことだよね? どんなって言われても。ずっと同じクラスだったけど、今と変わりないよね」
「そうだな。こいつの無茶にいつも振り回されていた」
「無茶ってひどいなー。風間も楽しんでたじゃん」
 
 高校時代とか懐かしいなー。3年間同じクラスで、授業をさぼろうとした私を蒼也が目敏く引き留めるんだもんなー。授業が終わるなり購買にパンを求めて走ったりもしたし、テストの結果を張り出されて周りから茶化されたり。ほんと色々あったよ。
 
「3年間同じクラスだったんですね」
「ついでに言うと、中・高の6年間同じクラスだったよ」
「「!?」」
「風間さん、ご愁傷様です」
「きくっちー、それどういう意味かな?」
 
 向かいに座っていたきくっちーに仕返しとばかり彼のから揚げを1つ頂戴する。恨みがましい視線で見られたけど無視だ無視。
 
「やっぱり学生時代もモテたんですか?」
 
 愛かららずなきくっちーとは反対に、みかみーは私たちの学生時代に興味津々といった具合であった。恋愛の話になるのは女の子ならではなのだろう。
 しかし、私と蒼也は彼女の質問に対して首を傾げるのだ。
 
「モテてたの? 風間」
「知らん。人並みじゃないか」
「確かに。そんな感じだよねー」
 
 店員さんを呼ぶスイッチを押してデザートのプリンパフェを頼む。捨てがたかった新商品の杏仁豆腐も頼めば蒼也に睨まれた気がするけど無視に限る。
 店員さんが去った後、みかみーの怒涛の質問が私たちを襲い掛かってきたのだ。
 
「人並みって絶対嘘ですよね。何人に告白されたとか、付き合ったとかないんですか? 修学旅行とか、体育祭とかでそういう話にならなかったんですか!?」
「ちょ、三上落ち着いてよ」
 
 興奮したように私たちに詰め寄るみかみーに落ち着けときくっちー。確かに、彼女の剣幕は驚くものがある。しかし、私たちは顔を見合わせるしか出来なかったのだ。

「本当に人並みだったよ。いたとしても1人か2人くらいじゃない?」
「修学旅行も体育祭も、こいつとばかりペアを組まされていたからな」
 
 いやー、ほんと懐かしい。蒼也とペアかってくらい一緒だったもんねえ。他の人と組もうかなーと思ったりもしたけど、なんか驚かれるし、蒼也と組むことが嫌な訳じゃないから結局楽なほうに逃げてしまっていたし。
 運ばれてきたプリンパフェにスプーンを突き立てた私は、なにやらこそこそし始める高校生組に首を傾げるのだ。
 
「薄々勘づいてたけど、ずっとこの関係だったとはね」
「モテないっていう理由も二人が付き合ってると思ってたら納得出来るわ」
 
 こそこそしていたと思えば3人は同時に顔を上げて私たちを見る。
 その表情の意味が分からないものの、3人は仲が良いなーと呑気に考えていた。
 
変わらない関係

いつか学生時代の話も書きたい。
風間隊は仲が良いと思う。
20170529