大砲娘と世界征服論 Another | ナノ



ニブチン!

 
 
「おっじゃまー」
 
 いつものように影浦隊のパスコードを入力して侵入した私は目当てのこたつに向かって足を向けた。
 手に持っているビニール袋にはたくさんのみかんが入っていて、動く度にがさがさと揺れた。今日はこたつに入りながらみかんを食べるというベタなことをしたくて態々買ってきたのだ。
 
「あれれ、誰もいない?」
 
 いやに静かだと思ったから北添やゲームをする光ちゃんがいないと思っていたけど、絵馬や影浦も居ないのは予想外だ。
 勝手に居ても怒らない面々だと知っているため、こたつに電源をつけて寝転がる。そこで角に置かれたファンシーなものに目が向くのだ。
 
「なにこれ」
 
 影浦隊にはない色に思えるピンクとかブルーの色合いは目がちかちかしそうだ。瞬きを繰り返しながら興味に押し負けた私はそれに手を伸ばそうとする。
 
「なにやってんだ」
「あ、影浦。これなに?」
 
 トイレでも行っていたのか、ひょっこりと顔を覗かせた影浦は手を伸ばしている私を不信に思ったようだ。しかし、私の興味の先はパステルカラーのそれらで、小首を傾げながら彼に問うのだ。
 
「なにって、菓子だろ」
「へえ、なんで」
「なんでってお前……昨日はバレンタインっつーヤツじゃねえのかよ」
「因みに影浦のやつ?」
「あ?」
 
 質問をしたのに返事はないけれど、長年の勘から彼のものとみて間違いないだろう。
 興味がなさそうなのにちゃんと受け取っている影浦を意外に思っていれば、靴箱に入っていたらしい。専らはボーダーのよしみで貰ったそうだけど、意外過ぎる一面にただただ唖然とするしかないのだ。
 
「へえ、カゲくんモテるんだね」
「なんかお前に言われるとすっげえ腹立つ」
 
 足を伸ばしてリラックスしている私を見てか、影浦はこたつに近づいて来て定位置に座った。テーブルに置いてある大量のみかんをみてげっそりとするのだ。
 そんな彼を視界に留めながらも貰ったのだろうチョコレートを一つ掴む。
 
「甘いの嫌いだよね。食べていい?」
 
 此処の角に置かれているのも北添や光ちゃんに食べてもらうためなのだろう。
 甘いものを好まない彼に断りを入れて、私は可愛く結われたリボンを解くのだ。
 
「お、クッキーじゃん。うむ、美味い。人にもらった奴ってなんでこんなにおいしいんだろう」
「一気に食いすぎだろ」
「いいのいいの。この様子だったら後で隊室へ行ってうってぃーに強請ろっと」
「普通逆だろ」
 
 そういって影浦はけらけらと笑った。
 ぎざぎざの歯を見て手に持っていたチョコレートを投げ入れてみた。突然のことで睨まれたものの、貰ったのは影浦だし、私ばかり食べているのはあげた人に申し訳ないから何も悪くないと思うんだよね。
 もぐもぐと口を動かしていながら次の包みに手を伸ばす。あ、これは絵馬宛か。絵馬もモテんだなー。あれ、ボーダーの面々ってモテる人多いのか? 蒼也も貰ってたし、きくっちーとか、あの太刀川でも貰えてるもんなー。
 
「なんかむかつく」
「いつも思うけど、お前ってほんと突拍子ないよな」
「え、だって思わない? 私もチョコレート欲しいし! なのにみんな貰ってるじゃん。太刀川も貰ってデレデレしてたし、私なんてみかん持ってただけなのにげらげら笑われたし。なんか色々ずるい!」
 
 手に持っていた生チョコを一気に頬張った。親切についていた爪楊枝を片手に熱弁すれば、露骨にため息をつかれる。なぜだ。
 そもそも、女から男にあげるってどういう仕組み? きっかけは? 理由は? バレンタインの起源ってなに? 私になんでみんなくれないの?
 
「やけ食いしてやるからなー。覚悟しろよチョコレート!」
「てか、お前のはねえのかよ」
「んぐぐ……ん?」
 
 突然振られた言葉に順応出来なくてココアパウダーでムセた。
 そんな私を心配する訳でもなく、驚く訳でもなく見つめてくる影浦は先ほどの質問の返事を待っているようであった。
 お前のってことは私の……え、私の?
 
「なんで私のが必要なの? カゲくん甘いの嫌いじゃん」
「おま……ほんとあっさりと言うか、ばっさり来るな」
「うーん、これは褒められてない気がする」
 
 一拍置いた彼は、こたつに寝そべりながら彼をみる私をみた。
 
「お前のなら、食う」
 
 真剣な、真っ直ぐとした瞳に驚き言葉が出ない。
 私の反応を確かめるように向けられた瞳が射貫くように鋭い。
 しかし、私はそんな彼の言葉を聞いて震えていた。
 
「お、おおう。まじか」
 
 カゲくんが甘いものを食べるとか聞いたら光ちゃん驚くんじゃね。
 またとない機会だ。しかも私のを食べるというのは特別な響きに聞こえてしまうから困ったものである。
 ――本来であれば両手をあげて喜びたい所ではあるものの、私と言えば、つい先日木崎と諏訪から念入りにチョコレート創作を禁じられた身なので、当然創る術がない。
 
「うーん、残念だけど断る!」
 
手をクロスさせてばってんを掲げた私に降り注いだのは影浦の容赦ない拳骨だった。
 
ニブチン!
 
「お前、最後は苦しんで死ね」
「え、ええー。なんで暴力の次に暴言吐かれないといけないのさ」
 
……
VD企画その2です。
なんとなく、夢主はこういう状況でもペースを乱されないと言うスキルがあると思います。
にぶちんな夢主のほうが影浦が頑張れそうな気がする。
頑張れ影浦。

20170214