このオチはない。「なんだこれは」 目の前の蒼也の第一声が気に食わない。 ついでに言うと、顔を青くする木崎と諏訪の姿も気に食わない。 ――此処は大学のカフェテリアで、いつもの面々で私のつくった“自信作”を見下ろしていた。 「どうどう? 初めてにしては中々じゃない?」 「因みに試食は?」 「してないけど」 見下ろされているのは私の自信作であるチョコレートだ。 なんでも、バレンタインでは大切な人にチョコレートをあげると以前、加古ちゃんが言っていた。しかしそのあとでみかみーが手作りだと喜ばれると言われたので彼女に習って作ってみたのだ。 折角の自信作をみて顔を青くする面々はこの際放っておく。食べてないのにひどい扱いを受けたものだ。まあ、見た目がいいとは言えないけど。 「因みに念を押すが三上に教えてもらったんだよな?」 「勿論!」 「作った現場には?」 「居なかったけど」 なんだなんだ、失礼だな諏訪。私のお手製が食べれないとか言い出すんじゃないだろうな。 机の上に置かれているチョコレートを1粒手に取って諏訪に近づける。 「ほら、食え」 「笑顔が怖いぞ葵」 「気にしない気にしなーい」 躊躇う諏訪の口にチョコレートを突っ込んでみせた。途端に咽込んだ諏訪を見て木崎は心配していたが無視に限る。 まあ、確かに普通のチョコレートじゃ面白くないかなと思って色々アレンジしてみたよ? 諏訪は肉とビールが好きだから刻んでミキサーにかけた上に乾燥させたパウダーをふりかけてみたりしたし、香りづけ?にビールを注いでみた。木崎は肉じゃがが得意料理なので、糸こんにゃくを刻んでみた。 流石にじゃがいもは入れれなかったよと笑っていえば、諏訪が走ってどこかへ行ったのが見えた。 「なるほど。走り出すほど美味しかったってことか」 「いや、逆だろ」 「木崎も食べてみる?」 「いや、俺は……あ、後で食べる。玉狛の奴らにも見せたいしな(ネタとして)」 「そう?」 確かに、玉狛のみんなへは作っていなかったのが盲点と言えた。もし作ってたら木崎にも此処で食べてもらえたのに残念だ。 そこで私は今まで無言を貫いていた蒼也に目を向ける。 彼は私が作ったチョコレートを見ていたと思えば、ひょいっと1粒口に運んだのだ。 その時の木崎の顔は忘れられないくらいに目を見開いていたのでちょっと驚きだ。 「お、おい! 風間大丈夫か。死ぬな」 「え、なんで? 美味しすぎて」 「(いや、逆だから!)」 相変わらずの無表情のままもぐもぐと口を動かす蒼也。 彼が食べたのは数ある力作の中でもかなりの力作で、俗にいう最高傑作だ。 夜な夜な本部のラボでフラスコを揺らしたのだ。雷蔵の研究費用をちょっくら頂いたのは彼に内緒だったりする。 「うまい」 「「!!」」 木崎と二人で顔を見合わせる。 「ほら、やっぱり風間はわかってるねー。木崎みた? どや」 「バカな。美味しいなんて嘘、だろ」 「力作だもん。愛が沢山籠ってるからねー」 「確かに。愛を感じるな」 「でしょー」 研究費用もバカにはならない。 このチョコレートは愛の結晶と言っても過言ではないのだ。 私たちのやり取りを聞いて頭を抱えだした木崎が小さい声で何かを呟いているか気になるけど、私も残されたチョコレートに手を伸ばした。うん、おいしい。 「(可笑しい。二人とも味オンチじゃなかったはずだ。葵は本来の研究職の性で“創った”のはわかるものの、なぜ風間も美味しいと言えるんだ。こいつらの言う通り、愛情が関係しているのか? そうであったら俺の料理は愛を込めるともっとおいしく)」 「去年は市販で済ましたけど、今年のは葵ちゃんお手製ですからね。来年も欲しいでしょ?」 「そうだな。この味だったら来年も受け取ってやっていい」 「“この味”? ちょっと待てよ。この味って」 「「プリン味」」 いやあ、プリンみたいな半固形物を粉末にするのは大変だったよ。 それこそ最新機器を導入した訳だし、念願のプリンチョコを作るためにモデルのプリンを食べ歩いた。製菓会社から依頼きたらどうしよう。ボーダーやめてプリン大使とかなっちゃおうかな。 このオチはない。 「諏訪、葵の作ったチョコは中々美味かったぞ」 「!?」 「ああ、普通に食えた」 「お、お前ら……!?」 「愛が籠ってたら違うってこった」 …… VD企画その1です。 風間さんは前回の閑話があったので、今回はギャグっぽく作ってみました。 20170214 ← |