結局は平行線「葵さんのサイドエフェクトってどこまで見えんの?」 純朴な疑問とも言えるそれが飛び出したのは食堂の一角で早めの夕食を食べている時であった。 遠くで歩いているのが見えたと葵が言い、手を振り食事へ誘ったのが今から少し前。葵の向かいで好物のエビフライを食べる出水と、ラーメンを啜る米屋が居た。 そんな二人の向かいでカツカレーを食していた葵は隣に座る風間に目を向けた。 「え、どこまでって言われてもどこまでだろう」 「知らん」 葵を一蹴した風間はカツカレーを無言で頬張る。その様子からこの話題に関与する気はないのだろう。目の前で好奇心に溢れる二人を見て、葵は顎に手を当てた。 「うーん。色々と見えるよ。まあ、意識しないとただ視力が良い人になるけど」 「けど?」 「本気になれば下着の色とか当てれるから」 「え、透視能力とかあるんすか!?」 へらりと笑った葵の発言に食いついてみせたのは男子高生ならではなのだろう。二人ともが前のめりになる様子に葵は声を上げて笑った。 「え、なら葵さんって毎日色んな人の下着姿を見てるんすか?」 「見ようと思わなかったら視えないからそんなことないけど。……言い当ててあげようか?」 頬杖をつきながら悪戯っぽく微笑んだ葵に一瞬だけ動きが止まるものの、先に手を上げたのは米屋だ。 「なら俺のパンツ当ててくださいよ」 「米屋は赤だね。ゴムが黒で赤地のヤツ。ワンポイントあるかなー?」 「っ! おお、スッゲー! 当たってるし」 驚く米屋に笑顔を隠さない葵はデザートのコーヒーゼリーに手を付け始める。見た目は清楚系とも言える葵の特技に二人は感心したような眼差しを向けるのだ。 「因みに風間は黒地」 「風間さん当たってるんすか?!」 「……」 葵に鋭い眼光を向けたものの、否定する気はないようだ。無言を貫く風間にますます葵への感心が集まるのだ。 「更に因みにだけど、下着姿じゃなくても見れるから」 「……へ?」 「つまりそれって」 「見ようと思えば裸も見えるよ」 あっけらかんと告げられた新事実に座っていた米屋は唐突に席から立ち上がった。 「え、まじ?」 驚きを越えて唖然としているのだろう。立ち上がったものの言葉を無くした米屋に対し、出水も驚いたように目を見開くが、次には葵の視線から逃げるように落ち付きのなくす。 「いいなあ! 俺もそんなサイドエフェクト欲しいー」 様々な下心を兼ね備えているのだろう。口から素直に飛び出してきた言葉には様々な思惑を孕んでいるようだ。羨む視線からくる優越感に葵の口元が緩んだ時、食堂の入口で葵を呼ぶ声が聞こえる。4人が揃って視線を向けた先には息を切らした鬼怒田が居るのだ。 「葵! ちょっと頼まれてくれないか」 「はーい。ちょっと抜けてるね。二人とも、今度パフェ奢ってあげる」 トレーを手に立ち上がった葵はそのまま鬼怒田の元へ向かう。慌てた様子から試行錯誤を繰り返している新作トリガーの研究なのだろう。 この様子であれば葵が食堂へ帰ってくることはないだろう。続きが聞きたかったと悔やむ米屋を見兼ねてか、それまで無言を貫いていた風間が小さなため息と共にゆっくりと口を開く。 「さっきの話だが、全部あいつの作り話だぞ」 「「!」」 「あいつのサイドエフェクトに透視能力はない」 驚く二人に種明かしを始める風間。葵が米屋の下着を言い当てることが出来たのも座る時に一部が見えたことで推測したのだろうと指摘されれば、二人は顔を見合わせるしか出来なかった。葵が別れ際にパフェを奢るとあえて言ったのも、作り話に付き合った二人への謝罪なのかもしれない。 ただ、面白おかしく作られた話にまんまと引っかかった二人の反応が楽しかったのだろう。やられたと一言、苦笑いを浮かべる出水に米屋も賛同したくなったが、ふと疑問が残ることに気付く。 「(作り話だったとしても、なんで葵さんは風間さんの色を知ってたんだろう)」 結局は平行線 20160415 ← |