大砲娘と世界征服論 Another | ナノ



16歳の憂鬱

 
 偶然ばったり。
 三上歌歩と歌川遼、そして菊池原士郎が三人同時に出会ったのは本当に偶然であった。
 歌川と菊地原が歩いている所に三上が合流し、風間隊の16歳が同時に集結したのが今から少し前。隊室に向かうべく進める足先が同じであれば自然と会話も弾むものとなった。
 
「でさー」
 
 専ら歌歩が話し手となり、それに対して歌川が相槌を打ち、菊池原が毒舌を吐くスタンスが確立されるものの、慣れたやり取りだ。持ち前の包容力で菊池原の毒舌を軽くあしらうことが出来る歌歩を同年代ながらも尊敬してしまうのは仕方のないことなのかもしれない。
 感心した様子を隠せないまま二人の後ろをついて歩いていれば、隊室を前にして菊池原が立ち止まったのが見えた。慌てて歩みを止める。
 
「どうかしたか?」
 
 菊地原が見て取れる程に眉間に皺を刻む。長い前髪から隠れることのないそれを見て立ち止った理由をなんとなく察してしまうのだった。
 
「またやってるよ。家でしてほしいなあ、ほんと」
「まあまあ」
 
 口先を尖らせる菊地原を宥める歌歩。そんな二人の頭上から隊室の扉を見れば、扉は完全に閉まっていないようで僅かに隙間があった。
 その隙間から見える光景は風間隊であれば誰しも一度以上は見たことがある光景だろう。
 
「ねえねえ、これとかどう?」
「知らん」
 
 風間隊の隊室はシンプルな造りとなっていた。
 四人掛けのテーブルが一つと、椅子が5つ。パソコンとロッカー、冷蔵庫がある程度だ。私物は他の隊に比べれば少ないだろうが、テーブルの向かいにある三人掛けのソファがメンバーの一人である葵の私物だと知ってしまえば私物が少ないとは言い難いかもしれない。
 そんなソファに深く腰掛けているのは当人である葵と風間隊の隊長である風間だった。風間に寄りかかりながら雑誌を捲る葵の姿と相変わらずな風間の姿が扉の隙間から確認出来た。
 
「これはみかみーに似合いそうなんだけどなあ」
「あ、これとか蒼也似合うかもよ」
 
 葵が風間に向かって声を掛けているのが確認出来るものの、内容までは伝わってこない。しかし、聴覚強化のサイドエフェクトを持つ菊池原には十二分に内容が伝わっているようで眉間の皺が深くなったのは確認せずとも分かることだ。
 他部隊からも言われるように、菊地原は風間を尊敬していた。勿論、歌川も同様であったが、もう一人の戦闘員である葵のことは“良き姉ポジション”と捉えている歌川は菊地原と明確な差が存在していた。
 確かにと歌川は眼前の光景を改めて見つめた。
 風間が葵以外の人間と距離を詰めて座っている所を見たことがないし、鉄仮面を崩す様子は滅多にお目にかかることが出来ない。風間のことを敬愛する菊池原が普段とは違う一面を見る、――しかも他の相手によって変えられた姿を見ることはプライド高い菊池原にとっては耐え難い出来事なのだろう。歌川ですら羨ましいと思えてしまうので尚更だ。
 葵との距離は近く傍からみれば恋人だと錯覚しても可笑しくはない距離だ。二人がどういう理由で同じ雑誌を共有しているのか不明であるが、二人きりの時だけお互いに名前で呼び合うことは風間隊内では暗黙の了解となっていた。
 きっと今、三人が扉を押して入れば二人は何事もなかったように距離を離し、普段通り苗字で呼び合うだろう。
 元の二人に戻してしまいたい思いとこのままの二人を見ていたい思いが交差する。風間隊所属の16歳特有の悩みとも言えた。
 
「風間さんと葵さん、似合いなのに」
 
 ぽつりと零した歌歩の意見に歌川は同意の意を示そうと首を振りかけたが、此処で同意してしまえば菊池原が怒り出すのは目に見えていた。ぐっと堪えながらも二人を見れば、葵がソファから足を投げ出し、風間に凭れかかっている姿になった。スカートから覗く葵の白い足がぶらぶらと宙に揺れる。
 
「蒼也冷たい」
「俺はいつもと変わりない」
「そんなこと言いつつ、プリンの補充してくれてるの知ってるから」
 
 からからと風間に向けて朗らかに笑った葵の様子を見れば、大抵風間自身を弄っている時の様子だ。それでも、照れることも怒ることもしない姿を見れば否定しない姿が何よりの優しさであると葵自身理解しているのだろう。
 
「うーん、私たち、どのタイミングで入ろうかな?」
 
 歌歩の最もな意見に菊地原と二人して無言で返す。
 壊したくない雰囲気であるのを知っているものの、このまま二人の様子を盗み見る趣味はなく早く隊室に入ってゆっくり過ごしたい気持ちもある。
 どうしたものかと内心首を傾げて思案する歌川の様子を見て何を思ったのか、菊池原は大きなため息を吐きだしてみせた。
 
「と言うか、あれで付き合ってないんだから勘弁してほしいよね」
 
16歳の憂鬱
 
いずれは個々で絡ませたい。
20151106