1/3「ついに、来たー!」 「うるさい」 隣から蒼也の怪訝そうな視線をもらうが気にしなーい。 特等席に腰かけて観戦する気満々の私に蒼也の小言は通用しないのだ。っていえば軽く殴られた。なぜ。 事の発端は前回のネイバー襲撃。それによってランク戦室に不具合が生じたようで1週間ランク戦お預けの刑を受けてしまったのだ。 システムの復旧に全力を注いでもらった結果、やっとこさランク戦再開となるのだ。 非番を頂いていた私たちは休みを返上して此処へきていた。私服の蒼也と私の組み合わせは観戦室でも結構目立つようで、ちらほらと視線を感じる。 知り合いはいないかとA級やB級の子を探すがお目当ての知り合いはいない。 「確か今日の解説は出水と時枝かー。三雲くんは嵐山隊で特訓していたようだから期待できるなー」 「時折思うが、お前の情報網はなぜそんなにも広いんだ」 「ふっふーん。ひ・み・つ」 あ、今うざいって顔したな。 隣に居る蒼也の頬を摘まんでぎゅうっと引っ張って変顔を楽しんでいれば海老名隊オペレーターの武富ちゃんからランク戦開始のアナウンスが始まった。 「ボーダーのみなさんこんばんは! ついにランク戦室の不具合が戻り、無事にランク戦を開幕することが出来ます。B級ランク戦夜の部。元気に実況していきたいと思います!」 「おおー!」 普段より一段と元気な武富ちゃんの様子を見る感じだと、自身の所属する隊が昇格したことに喜びを隠せないようでアップテンポに解説者の紹介が続く。 香取隊と柿崎隊の戦いは久しぶりなので楽しみだ。そこに爆弾の玉狛が加入される三つ巴はどういった展開が広がるだろうか。 「葵」 「んあ?」 「お前の予測、今回はどうなるんだ?」 探るような蒼也の瞳が面白い。なんだかんだいいつつランク戦の観戦に付き合ってくれるし、蒼也自身も玉狛の飛躍に驚きと期待を寄せているのだろう。 ランク戦の順位から現在の立ち位置を振り返る解説者たちの言葉に耳を傾けつつ、控え室に居る面々に目を配せる。 今までの玉狛戦は大体私の思う通りになった。そんな私に“賭け”の勝負を挑むなんて、 「いっせーのーでで言おうよ。蒼也も色々考えてんでしょ?」 「……」 にやりと口角を上げて笑った私は後輩たちに見せられない顔をしているに違いない。賭けに乗せるためにも此方を睨むようにして見る蒼也を笑って促した。 「じゃあいくよ、いっせーのーで」 「8対0対1」 「4対3対2」 「「!」」 お、中々面白い感じに割れたなー。これが私の感想だ。 一方の蒼也は驚き目を見開いたまま固まっている。まあ、私の回答は玉狛圧勝だからね。無理もないか。 「これはどういう」 「あ、始まるよ! 見ないと」 このまま私の自論を明かしても面白いだろうけど、実際に戦っているところを見るのが一番面白いだろう。蒼也も私も一番得点を挙げるのは玉狛だと思っている。それが実現するか否かは神のみぞ知るってやつだな! 「マップ選択権は柿崎隊かー」 選ばれたマップは工業地区。やや狭い印象を与える工業地区は“彼らの”作戦が役立つだろう。各自一定間隔に転送され、一斉に動き出したマップを見ながら今回の面子を振り返ることにした。 B級ランク、8位の玉狛を追うのは9位の香取隊と13位の柿崎隊だ。 香取隊は玉狛同様エースが存在するチームで攻撃パターンなどは似ているチームと言えた。柿崎隊はそんな2隊に比べると全員でまとまって行動する集中型だ。 香取ちゃんの勝気さが勝つか、柿崎の慎重さが勝利を導くのか。はたまた玉狛のびっくり箱が開くのか。 先に仕掛けてきたのは香取ちゃんだ。 「おお、」 空閑くんに仕掛けた香取ちゃんは合流を優先する空閑くんに向かってハンドガンとグラスホッパーで攻撃を開始する。時折スコーピオンを使う彼女のタイミングは絶妙で、伊達にマスタークラスまで上り詰めた訳ではないと思わせる。しかし、一方の空閑くんも相変わらずな動きで上手く香取ちゃんの攻撃を躱して反撃の一手を加えようとする。 まさに攻防の応酬と言える戦いは、開始早々に会場を熱気の渦に包み込んだ。 そんな攻防の最中、高台を勝ち取ったのは唯一の狙撃手である千佳ちゃんだ。彼女はいつでも狙撃出来る場所に居た。 一方の三雲くんも位置につき、空閑くんが香取ちゃんを連れてくる場所で準備を始める。 「アステロイド」 「ヒョロヒョロ弾が」 空閑くんとの一騎打ちを邪魔する三雲くんに香取ちゃんは照準を絞ったらしい。 三雲くんに向かってグラスホッパーを使う彼女は三雲くんを攻め落とすつもりなのだろう。 ――しかし、甘い。 「「!!?」」 “何か”に躓いてバランスを崩した香取ちゃんを狙うように千佳ちゃんはイーグレットからライトニングへ換装し直し、そのまま発砲する。それは香取ちゃんを庇う三浦によって間一髪を逃れたものの、鉛弾であることに誰もが唖然とするしかないだろう。 鉛弾と言えば三輪隊の三輪を思い浮かべる人が多い。しかし、それは逆を言えば三輪くらいしか上手く使いこなせている人がいないからだ。 弾速が遅く、相手を制限させるためだけの弾。しかし、使い勝手によっては様々な戦術や消耗戦、時には長期戦や味方を援護することも出来、異色な弾は千佳ちゃんに最適だと言えた。 それを狙撃手である千佳ちゃんが撃った。それは彼女の持つトリオン量の豊富さが成せる技で、蒼也の視線が私に向く理由も分からなくはない。 「アレはお前の入れ知恵か?」 「まさか。あれは彼女が友人と考えた策だよ。私の入れ知恵じゃない」 鉛弾の登場に会場がどよめく。勘の良い時枝や出水が私の名を出して推測している様子も見られるけど、私的に今回の“要”はそこではなかった。 「スパイダーに鉛弾。玉狛は色んなものをブッ込んでくるね」 それが面白くて見に来てる訳だけど、彼らはいつだって私たちを飽きさせない。 こんなにも戦術の幅を一試合毎で広げ、成長が目に見える部隊も珍しい。 ← |