大砲娘と世界征服論 | ナノ



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 相手の敵はコチラの数の2倍以上。単純な火力差を考えれば断然こちらが不利と言えただろうが、それで戦くようなボーダーメンバーではない。
 二宮の作戦通り、守りに一徹して相手の数を減らす。勝負はそこからだ。
 
「このままいけそうだな」
「向こうがなんの手も打って来なかったらな」
「あー、強い敵ほしい!」
 
 近かった荒船隊に混ぜさせてもらって取りあえず狙撃しまくった。奴さんは束になっているけれど、集中火力だけなら負けることはないだろう。
 此処にいる面子は持久戦にも強いタイプが集まっていると言えたし、この調子であればトリオン切れになることはない。
 ――しかし、向こうもいろいろ考えて来ているのだろう。明らかに動きの違うトリオン兵がやってきたのだ。決して私の願望が当たったとは思いたくない。
 だって手放しで喜んだら荒船に睨まれるし。
 
「お、獲物発見!」
 
 イーグレットからスコーピオンに切り替えて、グラスホッパーで跳び上がった私は相手に切り込んだ。前に出過ぎるなと二宮は言っていたが、それはこいつらが出てくる前の話だろう。後ろに回られて今の陣形を崩されるほうが厄介だ。
 
「へへっ、こいつの相手は私がするー!」
「葵、誰かカバー回そうか?」
「大丈夫。派手に遊びたいから笹森と双葉ちゃんのほうのサポートよろしく」
 
 加古ちゃんの無線に返事をしながら相手を見る。私のスコーピオンをあっさりと避けたのをみて、久しぶりに骨のある相手と戦えることを嬉しく感じてしまう。外見は今までのトリオン兵と変わりない様子から、なにか秘密でもあるのだろうか。顔部分にある光る模様を見ていれば、相手から攻撃を繰り出してきた。
 相手の攻撃は拳を当てるものがほとんどなのだろう。拳を振りかざすのを僅かな動きで躱してスコーピオンを胴体に突き刺してみるものの装甲が固くて思うように貫通しない。
 グラスホッパーで後退して距離を開けながら相手の行動パターンを考えてみる。
 
「(トリオン兵の動きにしては規則性が感じられないな。誰か操縦してるとか? それなら術者によって実力の差が出てきそうだけど、私の相手はどんな戦いをみせてくれるのだろうか)」
 
 まあ、ここら辺は終わった後に天羽に聞いたほうが確かだろう。無線から双葉ちゃんと木虎たち2人が倒したことが知らせとして届き、ゆっくりしていられないと改めて感じるのだ。
 
「(双葉ちゃんには高速移動の斬撃がある。確実なものにしたことを考えると木虎が足止めしたと考えられるかな。あれくらいの火力かー。スコーピオンだと時間掛かるなあ)」
 
 連携するための隊員が此処にはいない。一人で戦える相手であることは間違いないので、スコーピオンをイーグレットに切り替える。
 遠距離武器を取り出した私を見て奴さんは何を思ったのか突進してきた。まあ、それが普通の反応よね。
 
「はい、終わりー」
 
 近づいてきた相手に私も近づいて至近距離でイーグレットを発砲。僅かに抉れた装甲に追い打ちをかけるようにスコーピオンで串刺しにしてやった。最後まで気を抜かないように止めのスコーピオンは影浦のを真似て伸ばしてみた。
 
[神崎隊員、一人で人型トリオン兵のエース機撃破!]
「城戸さんみてたー? ちゃんと給料上げてくださいよ!」
 
 2機が破壊されたことに安心していれば、視界の隅に色違いのやつを見つける。距離で言えば数十メートル先だ。あれ、さっきまで3体しかいなかったよね? 本部からの連絡が来るまでにグラスホッパーで跳び出した。
 
「新しいエース機発見。神崎向かいます」
 
 なにこれ増える感じなの? それとも私と双葉ちゃんたちが撃破したから術者が次のトリオン兵に移動した感じ?
 相手が私を感知する前にアイビスを取り出して打ち込んでみせた。激しい爆音に続いて土煙が舞う中、半壊したトリオン兵にスコーピオンを突き立てる。
 
「2機目撃破っとわっ!?」
 
 撃破した矢先に違うトリオン兵から攻撃を受ける。慌てて回避すれば、そのトリオン兵の頭部に例のマークがあることに気付く。破壊する前に乗り移ったのか、はたまた私の所に2機とも集中してみせたのか。
 距離を開けようとせず、ひたすら拳を振るって相手にも疑問が募る。私に“遠距離武器を取り出させないようにするため”の猛攻に思えてならない。なにそれ、情報共有しているんですか。
 
「まあ、関係ないけど」
 
 伊達に風間隊に所属していない。彼らよりは全然使いこなせていないけれど、スコーピオンは使い勝手が良すぎる。作成を手掛けた迅にありがとうと言うしかないだろう。
 相手の拳をシールドでガードして、隙の出来た腹部にブレードを仕込んだ足で蹴りを入れる。攻撃を予測したのか、一瞬で後退してみせた敵の足元にグラスホッパーを出現させて敢えて私の方向に跳んでくるように仕込めば、敵は否応なしに私に向かってきた。そのスピードを利用する形で回し蹴りで首を飛ばす。
 
「お、玉狛が消耗戦に入ったなー。私はどう動こうかな」
 
 トリオン兵の上に乗っかって辺りを見渡すけれど、エース機が出ている様子はない。念のために本部に連絡を取ってエース機の様子を聞いてみるが結果は同じだ。
 二宮たちともだいぶ離れてしまったし、一度自陣へ戻ろうか。そう考えた矢先、数百メートル先に“何かが”見えた。好奇心に身を任せてそちらに向かって駆けだしてみる。
 
「うわああああ、危ない」
「!?」
 
 勢いよくグラスホッパーを使ったのはいいけれど、着地する時に加速しすぎた。下にいる人に気付いてもらるように声を上げたのに、その人を巻き込んで着地することとなってしまった。ごろごろと地面を転がれば地味に痛い。トリオン体なのでそこらへんの痛覚はないけれど、生身であれば全身打撲じゃ済まないだろう。 
 慌てて身体を起こせば巻き込んだ人と目が合う。うーん、時枝みたいなおかっぱ君だな。犬トリオン兵を連れているし敵ってことで間違いないだろうけど、今回の戦いで初めてお目にかかるネイバー相手に私は上から退くことも忘れてまじまじと見ていた。
 見つめ合う私とおかっぱ君。取りあえず笑ってその場を濁してみれば徐々におかっぱ君の顔が真っ赤になっていくのが面白い。
 
「(び、美人でかっかかわいい……! 此処にいるってことは玄界の兵ってことか。あれ、俺、なんで玄界の兵に押し倒されてんだ)あ、あの」
「! うわ、下敷きにしちゃってすみません」
 
 声を掛けられたことで押し倒していることに気付き、慌ててその場から退いた。
 周囲は公園のような所で、もうすぐ近くに市街地が広がっている。どうしてこのおかっぱ君が此処にいるのかはわからないけれど、市街地を狙うなら速攻で斬る。
 向こうも私が一般人でないことは気付いているようで、強張った表情からも警戒していることが分かる。新種の人型か迷い込んだ一般人かなと考えていたこともあって、まさか襲撃してきた奴さん本人であることに驚く。
 
「えっと、私の顔になんかついてる?」
「え、いや、いやいやいや! なにも! なにもついてないっす」
 
 慌てている感じに違和感を覚えつつ、どうしようかなと考える。この場で戦ってもいいけどなんでこの人が此処にいるのか理由を聞きたい。
 秀次辺りであれば捕虜にと真っ先に考えるのだろうけれど、さて、どうしようかな。
 考えていた時、不意に人の気配を感じ取る。私とネイバーは同時に驚き、顔を上げた。
 
「え、」
 
 そこにいたのは玉狛支部で会ったヒュースだった。