大砲娘と世界征服論 | ナノ



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[ゲート発生 ゲート発生]
 
「え、なんで私たちの時に限って奴さんは来るのかなあ」
「神崎。喋ってる暇があれば仕事をしろ」
「……へーい」
 
 ゲートから顔を覗かすトリオン兵に向かってイーグレットを一発。
 的確にコアを撃ち抜いていれば違うゲートがぱっくりと口を開ける。それを敢えて見逃したのは頼りになる隊長とメンバーが待ち構えているからだ。
 
「風間、南方向にもゲート発生」
「後方にも出ましたね」
「葵さんもっと仕事してよ。不公平じゃん」
「えー」
 
 歌川、菊池原の言葉に短く一言返事をしながら、後ろで大口を開けているだろうトリオン兵のコアにスコーピオンを突き刺した。
 私だって私なりに動いているのに、攻撃手の彼らと私では物理的に位置が離れていることもあり、中々認めてもらえないのが不服だ。
 不平を漏らしつつも確実に奴さんを減らしていくのには理由があった。
 今日はランク戦初日。三雲くんが引っ張る玉狛第二の勝敗が気になるのが本音ってヤツだ。
 
「はい、終わりー! トリオン体解除。私、先いくよー!」
「あ、おい!」
 
 今日の仕事は終わりとばかりにトリオン体を解除させて屋上から階段を駆け下りる私。え、ソッコーで仕事を切り上げた私に対して、菊池原からまた小言をもらうって?
 
「そんなの予想の範疇でしょ!」
 
 寧ろ怖いのは風間のほうだからねー。仕事は終えてるから菊池原はぐうの音も出ないはずだ。たぶん。
 階段の手すりを掴んで順々に降りていく。途中で誰かとぶつかりそうになったけど私の脳内には既に始まっているだろうランク戦が大半を占めていた。
 おそらく、おそらく初戦で負けることはないだろうけど、相手は諏訪隊と荒船隊だ。あの子たちがどう作戦を練ったのかが気になる。
 
「葵さん!」
「お、出水に米屋たちじゃん。おお、A級多いな」
 
 嵐山隊もいれば、出水に米谷、古寺に双葉ちゃんまで居るのか。司会が東さんとかなにそれモチベーション上がるじゃない。
 双葉ちゃんがじっと此方を見るので苦笑いを零してから彼女の隣に腰を落ち着かせる。既に転送された後なのか、東さんや緑川の解説は始まっていた。
 
「葵さん、今日は防衛任務じゃないの?」
「ゲート開いたから倒してきたよー。あとは任せてきた」
「「「(風間さん怒ってるんだろうなあ)」」」
「本命は諏訪さんっすか? それとも荒船さん?」
 
 なぜかジト目で此方を見てくる高校生組と目が合ったが、考えることはなんとなくわかる。防衛任務は午前中だけだったし、怒られることはしていないはずだとジト目で反撃していれば、空気を読んだ小寺から質問が飛んでくる。
 
「答えはどれも正解。一番は玉狛が気になるんだけど、玉狛相手にどう戦うのかが気になる」
「あ、逆なんだ」
「葵さんの予想って?」
 
 出水の質問に笑顔で答える。

「玉狛6の、諏訪2で荒船1」
「玉狛買いすぎじゃない?」
 
 私の予想が意外だったのか驚く面々を横目で捉えつつモニターを見る。モニター上では此処それぞれが一定の間隔で転送されたそうで、お互いがお互いを探すために奔走しているところだ。
 
「(未知数な玉狛相手に二人はどう応戦するのだろうか)」
 
 マップの主導権は玉狛側だ。敢えて勾配のある市街地Cを選択してきたのかが鍵と言えるだろう。
 私は諏訪隊の戦法も荒船隊の戦法もわかっているので、今回玉狛が市街地Cを選択してきた理由が分かって内心ほくそ笑む。
 
「かなり狙撃手有利なマップですね。上へ登るには道路を渡らないといけないし、狙撃手が上を陣取るとかなり有利と言えます」
 
 東さんの焦りの声が聞こえるのも頷ける。私自身も曲りなりに狙撃手なので、市街地Cとか小躍りしたくなるマップなのだ。そこを玉狛が選択してきたことで考えられるのは千佳ちゃんの活躍だろう。大砲娘と言われているトリオンモンスターの彼女を有するチームであると考えれば、市街地Cの選択は中々ベターだと言えるかもしれない。
 ――しかし、荒船隊は全員が狙撃手だ。そこを考え、諏訪隊に狙撃手がいない現状を加味すれば、玉狛には異なった思惑が潜んでいると考えられるだろう。
 
「玉狛がどう使うかだよねー。葵さんだったどう読む?」
「うーん、此処は諏訪隊と荒船隊の潰し合いを狙ったと考えるかなー。じゃないと、市街地Cとか喧嘩売ってるでしょ」
 
 高台へ目指して駆け上がるのは狙撃手チームの荒船隊だ。そんな荒船隊が高台を陣取ってしまえば、諏訪隊としては俄然不利な展開が待っていることが容易に予測することが出来る。
 そうなれば、諏訪隊も高台を目指すことを余儀なくされてしまう。
 
「2チームの潰し合いが可能であれば一番玉狛からしてみれば安全だからね。けど、それだけじゃないはずだ」
 
 高台を目指して動き出した荒船隊、諏訪隊の2チームと比較すれば、玉狛は先に合流することを選択したようだった。
 合流することで作戦を立てやすく、メンバー同士の安全も確保されやすいが、相手と比べるとどうしても一手が遅れてしまう。そうでもして集まりたい何かがあったのか、はたまた、相手の経験値を考えて慎重に行動したのか。そこは玉狛の行動を見守るしかないだろう。
 穂刈の牽制とも言える一発が諏訪隊を完全に足止めし、転送位置の加減で高台を陣取ったのは荒船隊だ。諏訪隊からすれば最悪の展開に自然と諏訪隊は集結したようだ。
 
「(さて、諏訪はどう行動するかな)」
 
 かなり苛立った様子が見られるものの、諏訪隊も実力で言えばB級上位だ。勿論、狙撃手相手に何度も戦っているチームでもあるので、ここ等辺は想定内ともいえるだろう。
 問題の玉狛と言えば、三人集まった状態で高台へのぼることはしていない。
 
「おっ!」
 
 驚きだったのが、玉狛のびっくり箱その1が突然訪れたことだろう。
 千佳ちゃんのアイビスが高台に居る荒船隊に向けて一発放たれたことだ。その一発は外れる結果となり、荒船隊3人からの猛攻が玉狛へ向く。
 三雲くんと空閑くんのフルシールドでなんとか難を切り抜けているように見えるが、きっとこれにも訳があるのだろう。
 
「なるほどねえ」
 
 何度もシールドが破られるのにも関わらず、玉狛隊は荒船隊を狙う。地形を変化させるほどの勢いに一瞬、地形を弄りたいのかと考えるものの、予想外の展開が眼前に広がった。
 
「荒船!」
 
 玉狛に集中していた荒船隊を奇襲したのは諏訪隊だ。
 見事に同じ高台までのぼられた挙句、不意を突かれての攻撃。一瞬で戦況がひっくり返されたと考えても可笑しくはない。
 
「おお、2対1に持ち込むなんて中々ずる賢いねー」