大砲娘と世界征服論 | ナノ



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 奴さんを倒すには風上を意識しないと気体攻撃にやられてしまうかもしれない。しかも、伝達脳と供給機関が移動できる所を考えると、無差別に攻撃出来る銃手の協力が必要だ。伝達脳と供給機関の場所が分かるようにマーキングしておきたいなあ。となると、本部にある仮想訓練室で戦うのがベストかもしれない。攻撃を受けてもすぐに復活出来るし、相手の伝達脳と供給機関の場所を知るまでの攻撃も可能だ。
 
「っ、」
 
 もう10分経った? 起き上がると頭になんとも言えない激痛が走った。
 
「起きたか」
「……へ?」
 
 痛む頭を押さえながら辺りを見渡したら隊室であった。その状況を察するや否や、動けない私を男が攻撃したことが理解出来た。
 ベッドから起きようとした私を制した蒼也は相変わらず感情の読みにくい顔で私を見ている。
 
「あいつは?」
「死んだ。ネイバーの仲間に殺された」
「! そう」
「ネイバーたちは撤退した。実質上、俺たちの勝利だ」
 
 ベッドの淵に腰掛けた蒼也から感情を読み取ることが出来なかった。経緯を聞くことは出来ていないけれど、腑に落ちない終わり方だったのだろうか。
 ……まあ、仲間に殺されたと聞けば後味が悪いのもうなずけるけれど。
 再び起き上がろうとした私を制した彼の言葉を無視して、ベッドの淵に足をつけた。隊室は静まりかえっており、菊池原たち3人は戦いの後始末をしているのだと察しの良い彼からの言葉をもらう。
 
「葵」
 
 表情からは感情の起伏が読みにくい程の無表情で、それは長年腐れ縁をしている私でも難しい時がある。しかし、そんな彼が私を呼ぶ声は誰よりも分かりやすいんじゃないかと思える程の感情を含んでいた。
 
「葵」
「聞こえてるよ。どうせ説教でしょ?」
「っ、なぜ“隊長”である俺の指示が聞けない」
 
 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した私は、キャップを緩めながら後ろを振り返った。ベッドの腰掛けた蒼也の瞳は鋭く、責め立てるように私を映すのだ。
 
「なんでって、蒼也が一番分かってるでしょ? ウチの隊長をやられて怒らない程バカじゃないよ」
「ならなぜ、菊池原たちを離脱させた後に自分だけ残った」
「……分かってるにあえて聞くの? あの段階では私一人でするほうが効率が良かったからよ」
 
 狙撃手と攻撃手では根本的に攻撃の仕方が違う。蒼也が居なくなった今、リーダーとして指揮する人間が居なくなったも同然な訳で、それであれば単体の攻撃が有力であり、狙撃手である私が残るのも当然だった訳だ。
 
「分かっているのにあえてはぐらかすのか? 本当はあいつらに傷ついてほくなかったんだろ?」
「……」
「お前の考えを否定する気はないが、俺にも俺の考えがある。お前ひとりが動かれては」
「なら、私が風間隊に要らないって言えばいいじゃん! 偉そうに私だけ残ったくせに、ネイバー一人も倒すことが出来なくて、気を失って終戦するまで安全な所で寝ていた私をっ、要らないって!」
「おいっ、葵!」
 
 隊室を飛び出して闇雲に走った。走れば走る程に頭が痛くなったけれど、足を止めることが出来なかった。
 八つ当たりだってわかっている。蒼也だって、あの場所でネイバーを仕留めることが出来なかった自分を悔やんでいるはずなのだ。そして、それを私一人の責任としないことも分かっている。けれど、一層のこと、責めてくれたらいいのだ。そうすればこんなにも罪悪感に苛まれることなんてないのに――。
 
「葵さん!」
「っ、どうしましたか」
 
 突然呼ばれて足を止める。声の方向に目を向ければ、ぼろぼろになったエンジニア仲間の姿が目に飛び込んでくるのだ。
 言葉を失った私に近づいてきた彼らは息を整えた後、小さな笑みを浮かべたのだ。
 
「良かった。葵さんは無事なんですね」
「それ、どういう意味ですか?」
「……実は、液状化するネイバーに本部が襲撃されまして、仲間が」
 
 連れられた所は壁がぼろぼろに砕かれ、横たわっているエンジニアたちであった。中にはかなりの重傷を受けているエンジニアの姿があり、息が止まったのが自分でも感じられた。
 
「この傷は酷いな。病院へ連れて行ったほうが良さそうだ」
「救急車を呼ぼうか? しかし、状況が状況なだけあって、今から行くには時間がかかりそうだ」
 
 研究室に到着した医務班が手当てをする中、トリオン体へと換装した私は医務班たちの間を割って入った。
 
「病院へは私が連れて行く。乗り心地は保障出来ないけど、そっちのほうが病院へ早くいけるはずだ。一番重症なのは?」
「この人です」
「分かった。一次処置を終わらせたら教えてほしい」
 
 重症の女性を抱えてグラスホッパーで移動する。病院までの距離を考えると屋上まで登った後、一気に下りるほうが早いだろう。
 グラスホッパーを使って走りながらも彼が言った言葉が頭から離れない。
 液状化するネイバー、それはエネドラと名乗っていた男なのだろう。
 ――私が仕留め損ねた男だ。