大砲娘と世界征服論 | ナノ



1/2

 
 
「(これは参ったなあ)」

 咄嗟に、目の前に居るネイバーを相手に向けて啖呵を切ったものの、内心は心臓ばくばくだ。
 蒼也たちが戦っているのを見ていたので相手の攻撃パターンは分かるものの、例の攻撃の突破口が開けている訳ではない。妙案がある訳でもない今は正に“危機的状況”と言えるに等しかった。
 ――しかし、これで引くと言う選択肢が浮かび上がらないのは脳裏に蒼也の顔が過るからだろう。頻りに私の耳へと撤退を語りかける蒼也との通信を切り、私は敵を見極めるように睨みつけた。
 
「手に持っている銃を見た感じ、どう考えても遠距離タイプだろ? それで俺に勝てると思うんじゃねえぞ」
「それはやってみたらいいんじゃない?」
 
 へらりと笑った私の行動が相手の逆鱗に触れることは理解出来た。
 
「せいぜいチビのように俺に遊ばれてくたばるんだなッ!」
「(きたっ)」
 
 “耳”で見るよりも“目”で見るほうが不利だと言うことを改めて感じさせられるだろう。
 無数に地面や壁から飛び出してきたブレードを目で見る。詳しく言えば、地面や壁からブレードが飛び出してくるだろう僅かな亀裂から私へと到達するだろう距離を目算して躱していく。狙撃手が本職である手前、距離を測るのは簡単なことだ。問題は、ブレードが出てくる一瞬を考えることは後出しであることに変わりなく、相手の攻撃を受ける防戦一方の状況を作り出してしまうということであった。
 
「(キリないな。なんとかして反撃の手を打たないと)」
 
 攻撃手とネイバーの相性が悪いのは、液体化出来るだろう相手の伝達脳と供給機関を正確に狙えないということであった。闇雲に切りつけることは出来たとしても、透視出来る能力が備わっている訳もなく徒労であることが多いのだ。
 しかも、液体化出来るという特性を踏まえれば、伝達脳と供給機関の位置を変えることも容易だろう。
 
「(理想は銃を乱射してハチの巣にすることかな。そうすれば伝達脳と供給機関が分からなくても当たる可能性がある。私程の威力があれば、相手が再生する前に撃ちぬくことが出来る)」
「威勢が良かった割には随分と大人しいじゃねえか。消耗戦になるって分かってんならさっさと攻撃して来いよ」
 
 相手の発言からも遊ばれていると表現するのが確かだろう。女であり狙撃手という事実は相手に余裕を与えているらしい。
 それはそれで好都合であるものの、防戦一方である今は相手の言い分が最もだ。
 飛び出してきたブレードを銃で撃ち落とし、一歩後退し相手との距離をあける。
 間合いをあけることが意味のないことであると分かるものの、ただ攻撃を避けるために後退した訳ではなかった。
 
「(懸念されることは蒼也が食らった攻撃ということになる。それを警戒しつつブレードを突破しなければ私は彼の言う通りの無駄死になる)」
 
 手に持っていたイーグレットの銃口を私の背後にある壁に向け、トリガーを引く。そして、壁の四方を撃ちぬいた私はその後に壁を蹴ったのだ。
 撃ちぬいた後に刺激を与えたことで壁が僅かに崩れ、隙間から青空が見える。隙間から吹きぬいた風が私と相手の髪を優しく撫ぜた。この場の殺伐とした雰囲気に似合わず、随分と優しい風だ。
 
「仕方ないね。私の本気見せてあげるよ」
 
 風に靡く髪を耳にかけて戦闘態勢入った私を見て相手も満足したようであった。
 先程同様、様々な所から音を出してブレードを地面や壁から出現させるのだ。それに対して、今までは一歩も前に進むことがなかった私は補助トリガーとしてグラスホッパーを出現させる。宙に足場を人工的に作り出すことで狭い室内でも回避行動がとれるのだ。
 確実に相手へと近づく私の回避能力に驚いたのか、それとも先程の蒼也の一件があって周囲を警戒しているのか、相手が一歩後ろへ後退したのが分かる。
 
「どうしたの? そんな攻撃しか出来ない訳?」
「舐めやがって!」
 
 相手が出すブレードが先ほどの倍になる。
 グラスホッパーから地上へ降りた私は、姿勢を低くしたまま相手に突っ込んでいった。手に持っていた銃からの攻撃を危惧したのだろう。相手は私の真正面からブレードを出すのだ。
 
「なっ!」
 
 そんな正面からのブレードを予測した私は、手に持っていたイーグレットをスコーピオンに変更させてブレードを叩ききる。唖然とする相手に向けてスコーピオンの剣先を向け、相手の胸元を貫いた。
 
「私が狙撃手だからって使えないと思った? これでも風間隊なんだけど」
「っ、ざけんなよ!」
「うわっ!」
 
 液体化の条件は存在しないらしい。スコーピオンが貫かれた胸元はどろどろの液体なのに、足蹴りしようとしてくる足は確実に本物だ。
 咄嗟にスコーピオンから手を離して、回避行動を取る私を逃さないように相手は拳を私に向け、思いっきり殴ってきたのだ。
 
「〜〜っ」
 
 顔面直撃を受けた私は、そのまま先程居た位置まで転がることになった。
 生身だったら絶対責任取ってもらうわ。女の顔狙うとかこいつマジで外道か。
 
「(くそっ、歯が折れた)」
 
 口の中の違和感を感じてその場で吐き出せば、ぽろりと零れ落ちた歯。トリオン体だったからいいけど、打撃を受けるのは久しぶり過ぎる。
 顔を押さえながら起き上がろうとする私の頭上に影が差した瞬間、あ、終わったかもなんて考えてしまった。