大砲娘と世界征服論 | ナノ



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ガツン ガツン
 
「君は一体、いつ壊れちゃうんだろうねえ」
 
 ノイズ混じりに誰かの生唾を呑み込んだ音が聞こえた気がするけれど、私は手を休めることをしなかった。
 
ガツン ガツン
 
 至近距離で放ったイーグレットが新型トリオン兵の頭蓋骨にヒビを入れる。
 アイビスだと衝撃破が強すぎて至近距離で打つことは出来ないけれど、改良に改良を重ねたイーグレットは至近距離が好きな私でも打つことが出来るのだ。
 新型トリオン兵を見つけたのは蒼也たちと合流しようとグラスホッパーを使って空を蹴っていた時。たまたま見つけたトリオン兵を撃ちぬけば、その殻を破るようにして現れたのだ。
 いや、初めは驚いたよ? なんが出てきたががグロいなーって。けど、思考が纏まったのは此処までで、手に持っていたイーグレットを持ち直して相手に突撃したのだ。
 
「葵、遊んでる場合じゃないぞ」
 
 躊躇いがちに告げられた鬼怒田さんの言葉に一瞬手を休めた。土煙の影響で視界が不良なのをいいことに、薙ぎ払おうと腕を伸ばしてきたトリオン兵の攻撃を躱しつつイーグレットを一発。ガツンと鈍い音を立てて更に大きなヒビが入った。
 
「えー、けど気になりません? 新型トリオン兵の硬いと言われている頭蓋骨に何回イーグレットを撃ちこんだら穴が開くのか。鬼怒田さん、新型ですよ新型! 逃す手はないというか、是非ともサンプルを手に入れたいと言うか」
「う、うむ。言われるとそうなるが(葵のヤツ、完全にエンジニア思考になってる)」
「葵さん、風間さんたちがブラックトリガーと接触しました!」
 
 戸惑う鬼怒田さんをあと一歩まで押そうとした時、みかみーの通信が入ったことに気付く。
 ブラックトリガー。そう聞けば、脳裏に蒼也をはじめとした面々が過る。
 
「まじかー。神崎葵、風間隊合流に向かいます!」
 
 ガツン。
 最後に一発撃ちこんだ強力イーグレットでトリオン兵の頭蓋骨は呆気なく崩壊。それによって活動停止した姿を尻目に再びグラスホッパーで駆け出す。
 私が入隊することになった風間隊は、入隊当初から既に部隊としての戦闘パターンが確立されていた。スコーピオンを主とした得物を扱う超攻撃型の部隊。そんな中に飛び込むことになった私は、傍からみれば不要な存在と思われるだろう。
 私自身感じることのある違和感を周囲に指摘されることは慣れっこであるが、その違和感を私自身は安心感と捉えていた。
 手頃なビルに降り立ってみかみーの指示された方角に目を向ける。サイドエフェクトである強化視覚は障害物があれば視えないという不便さがあるものの、逆を言えば障害物さえなければ何処だって見ることが出来る。
 アイビスで一発、そこらへんの建物を吹き飛ばして障害物を無くせば、眼前には開けたスペース。ビルの屋上からイーグレットを構えた私はスコープを覗くことなく遠方に目を向けた。そして、数百メートル先で蒼也たちが動いているのを視界に収めたのだ。
 
「大丈夫」
 
 そう、蒼也たち風間隊は私が居なくても大丈夫な部隊なのだ。
 スコーピオンの連携だけで言えば断トツクラスの実力を誇る風間隊を私は信用していたし、だからこそ単独任務を任された時だって私は快諾出来たのだ。
 
「大丈夫」
 
 誰かに伝える訳ではなく、あくまでも自分に言い聞かせるように。ゆっくり、噛み締めるように言葉を紡いだ。
 蒼也たちの連携でいけば未知の能力を持つブラックトリガーが相手でも安心して援護射撃が出来るのは今までの遠征でも同じであった。
 ――それなのにも関わらず、イーグレットのグリップを握り直した私の手が、僅かに汗ばんでいることに気付くのに時間はかからなかった。
 
……
 

 俺たちの前に如実として現れた奴は、黒い角を頭部に生やしたアフトクラトルからのネイバーだと言うことが分かった。
 液体化出来るブレード型のトリガーと考えるのが確かだろう。奴の繰り出される攻撃を一つ一つ的確に躱すことが出来るのは菊池原の持つ強化聴覚のお蔭だろう。
 聴覚をシンクロさせることで、視覚に頼ることなく敵の攻撃を躱すことが出来る。特に、目の前の男のような死角に攻撃を忍ばせることが出来る相手には効果的だと言えた。
 更に、菊地原の特技とも言える音の聞き分けが合わされば、フェイクを見破るのは意図も簡単だと言えるのだ。
 
「全然当たんねーぞこいつら。ケツに目ん玉でもついてんのか」

 壁や地面を潜って相手の死角に入った所を攻撃する攻撃スタイルは迅の持つ風刃に似ているが、風刃程のスピードは感じられなく、避けるのは容易と言えた。
 
「どこかで近づきたいですね。長時間の聴覚共有は酔ってくる」
「根性ないなあ」
「相手がイラついて隙を見せるまでこれでいく」
 
 先程の発言から、相手は短気で気性が荒い性格であることが判断される。相手の苛立ちから見つけ出せた隙が付け入るチャンスだと考えるのが妥当だろう。
 相手の顔が歪むのを冷静に分析していれば、相手は俺たちが目ではなく耳に頼っていることに気付いたのだろう。ビルの至る所から音を発し始めたのだ。
 
「右上左の上下。それ以外は無視していいです」
 
 菊地原の指示と同時に出現したブレードが俺たちに突き刺さることはなかった。
 
「っ、玄界の猿どもが……! 面倒くせえ、雑魚に付き合うのは終わりだッ! フルパワーで八つ裂きにしてやる」
 
 建物内部を潰さんとする勢いで現れた無数のブレードに身の危険を感じたものの、それは一瞬だけであった。俺たちの前に現れたブレードが飛んできたイーグレットによって粉々に破壊されていく。まるで相手の背後に回ることを促されるような援護射撃に遅れて登場したのだろう隊員の顔が思い浮かぶのだ。