大砲娘と世界征服論 | ナノ



臨時チーム編成

 
「え、それってどういうことよ」
 
 風間隊の隊室に私たちは集まっていた。
 椅子に座る蒼也、菊池原、歌川、みかみーとソファに寝転ぶ私。以前の会議での話し合いを伝達されている中、聞きなれない言葉にソファから起き上がった。
 あ、プリン落ちる。
 
「聞いてないんですけどー」
「今初めて告げたからな」
「なんでうちばっかり分断されなきゃいけないのよー」
 
 いくら文句を告げた所で決められた作戦が変わる訳ではないのは分かるものの、文句の一つでも言わないと気持ち的に晴れない。
 椅子に座ったまま私を見る蒼也の表情は相変わらずで、口先を尖らせたものの続きを言うことが出来なかった。
 会議での話し合いは近いうちにネイバーが攻めてくるということ。私たち風間隊は会場警備にあたり、ランク戦は通常通り行うとのことだ。以前の大戦での名残りが残っている今、市民に通達することで混乱や不安が相乗すると考えて極秘で行われるらしい。
 それによって東さんや影浦たち、玉狛第二の面々たちは今回の戦闘に参加しないらしい。そして私たち風間隊も、だ。
 まあ、カメレオンを使用するのがベターなステルスチームなので会場警備に当てられた理由も分からなくはないけれど、私が憤慨しているのはそこではない。
 
「ちょっと城戸さんに文句言ってくる」
 
 私が憤慨している理由は、風間隊の役割が様々あるということであった。これは作戦によって変えられる訳だけど、パターンAであった場合、風間と私は菊池原や歌川と別行動を取ることになる。前回の戦いでも(主に私が)隊行動から外されて単独任務を請け負ったのに、今回も分断されることに腹が立っているのだ。
 
「仕方ないだろう。歌川と菊池原は俺を除いてカメレオンで連携が出来るが、お前は連携と言うよりは外で戦ったほうが戦力になる」
「私も風間と一緒に行きたい」
「集めた人員を見た時、狙撃手や銃手が多く、攻撃手としても動けるお前の戦力を買われている結果だ。我儘でどうにかなることじゃないぞ。それに、格納庫でお前の狙撃技術が活かされるとは思えない」
「っ、」
 
 論破されてしまった。いや、この場合はぐうの音も出ないというやつか。
 暗に格納庫を爆破するだろうという視線を受けてしまえば視線を逸らすしか出来なかった。蒼也じゃなくて迅とか太刀川相手に直接言うほうが押せたかもしれないのに、どうして腐れ縁の彼は真面目すぎるのだろうか。
 これ以上口うるさく言えば菊池原から冷たい視線を抱くことになるので、仕方なく冷蔵庫へ近づいて新しいプリンを手に取ることにした。
 作戦は迅のサイドエフェクトが頼りで、それまではそれぞれ待機だとのこと。玉狛第一も本部に駐屯している様子を考えれば、上部からしてみれば本当に極秘で行いたいらしい。
 
「俺らの代わりに、お前には助っ人として別の部隊に所属してもらうことになる」
「えー、フリー扱いでいいよ。どうせ適当に動くし」
「適切な場所で適切な状況にお前を動員してほしいのが本部と迅の考えだ。そうすることが一番被害が少ないらしい」
「……因みに、どの部隊よ」
 
 蒼也の口から発せられた部隊の名前に私は大声を上げて反論するしかなかった。
 歌川とみかみーの同情の眼差しが苦しい。
 
 
……
 
 会場警備の合間に隊室でごろごろしていれば、忍田さんから緊急の通知が届く。内容はネイバーが攻めてきたという迅からの未知を伝えたものだろう。
 
「“パターンA”だ。全員配置に付け」
「じゃあ俺と菊池原は行ってきます」
「ああ」
 
 ソファでごろごろしていれば、歌川と思える声が無線を透して聞こえてきたので緩慢な声援を送った。寝転びながら新作のプリンクッキーに手を伸ばしていれば葵と私の名を呼ぶ声が聞こえる。
 
「行くよー。行きますぅ」
 
 あと一枚だと寝転んだまま精一杯腕を伸ばして指先で掴んだクッキー。ほっと小さな笑顔が零れれば、不意に隣に座った蒼也があった。伸ばされた指先が私の頬を撫ぜるようにすべる。
 頬に触れている指先は冷たいのにも関わらず、彼の表情は優しさが滲んでいる。
 脳裏には以前の大戦のこともあるのだろう。けれど、それを口に出さないのが彼の不器用さでもあって優しさでもあるのだ。
 
「……怪我をするなよ」
「もー、心配性だなあ。トリオン体だから大丈夫だし。それに、風間隊の一員だよ? 私」
 
 その手に自分の手を重ねて笑ってみる。そして手をやんわりと退けて、最後の一枚となったクッキーを彼の唇に押し当てた。
 
「やるからにはお役目果たして来るから」
 
 けたたましく鳴り響いたケータイの相手は諏訪辺りだろう。立ち上がてトリオン体になって隊室を飛び出した。プランAと言うことは私は屋上組と合流すればいいのだろう。
 
「うわ、北東えげつないことになってんね」
「「葵さん!」」
「てかバックワームは!?」
「あー、忘れた」
 
 え、奴さん相手にバックワームとかいる?
 屋上には既に狙撃手面々が揃っていて、北東のどえらい数の奴さんを見て皆が苦い顔をしていた。かくいう私も北東を見ている訳だけど、律儀に突っ込んできた荒船にも驚く。バックワームとかでコソコソしないの。私は。
 
「手始めにアイビスぶっぱなしますー」
「「「えっ?!」」」
「あ、おい! ちょ」
「はい、どーん」
 
ドーン
 
 焦った声は爆風と共に吹き飛んだ。そこそこなトリオンを込めたので弾速は遅いけど威力は保証出来る。案の定、土煙を凝らしてみればまあまあの数が吹き飛んだように見える。一部が破壊されたトリオン兵に至ってはイーグレットに武器を換装し直して全て頭を狙い撃ちする。
 
「うわ、大砲女怖ェ」
「こっちはイライラ溜まってんだよね。さっさと始末してしまいたい」
 
 土煙が晴れた頃に他の狙撃手もトリガーを引いた。奴さんのトリオン兵も一筋縄ではいかないようで、シールドを張って協力し合うようだ。中々骨のありそうなトリオン兵だと人型のそれを見ていれば、シールドを重ねるという技まで披露してきた。
 平行射撃をするものの如何せん数が多すぎる。じりじりと本部に近づかれてはアイビスをぶっ放す訳にもいかず、イーグレットで応戦するしかない。下に降りたい気持ちもあったけれど、迅のプラン通りに進まないと蒼也サマに怒られそうだ。……それに、“あいつ”が黙っていない。
 
「え、なんか見える」
「っ!」
 
 頭上に光る何かが見えたので目を凝らしてみればトリオン兵の卵のようなものであった。トリオン兵は小さく収納できる仕組みなので嫌な予感しかしない。
 慌ててライトニングに変えて幾つか広がる前に狙撃してみるけれど、幾つかは狙撃し損ねて屋上に降りかかってきた。
 
「お見事! 葵さんのライトニングとか久しぶりに見たなー」
「威力がないのは好きじゃないからね。備えあれば患いなしってことよ」
「呑気に話してないでください!」
 
 卵はゲートとなってトリオン兵が顔を覗かせる。
 形状は犬であったが、嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか。
 手に持っていたライトニングをスコーピオンに切り替えて噛みつこうとしてくるトリオン兵を斬り刻む。荒船も同様のタイミングで弧月に換装し、レイジは拳で殴るという芸当をしてみせた。
 
「わんちゃんは足止めとみた。下にいるトリオン兵への迎撃怠らないでね。犬は私たちでなんとかするから」
「武闘派狙撃手スリートップ! 頼りにしてるぜー」
 
 わらわらと声援を送る彼らの期待に応えるように一匹ずつトリオン兵を倒していく。荒船が渋い顔つきのまま攻撃しているのを見て、犬が嫌いだったことを思い出した。
 近くにいるトリオン兵をなぎ倒した後、荒船に向かって声を上げた。
 
「荒船って犬嫌いじゃなかった!? 可愛いところあるよね」
「っ、可愛いとか言われても嬉しくないんだけど」
「いやいや、ポイント高いよ。なんていうの? ギャップ萌え?」
「……葵さんにはどうなの」
 
 飛びかかってきたトリオン兵の攻撃を避けてスコーピオンで分断した。荒船の声が聞こえなくてもう一度と聞き返せば無視された上に舌打ちされた。いろいろひどいな。
 会話が中途半端な形で途切れてしまったのは北東方向からやってきたトリオン兵がかなり近くまでやって来ており、下にいる部隊の撤退を余儀なくされたからだ。
 下からグラスホッパーを使って上がってきてくれた辻と緑川のお陰で上にいる犬のトリオン兵が今まで以上に早く殲滅できそうだ。それに伴って上から下に向かっての狙撃に集中出来ることもあって、形勢は再びトリオン兵を押し切る形となった。
 
「二宮隊長からの指示で、上に居る狙撃手が半分下に降りるようにと」
「葵さんはもう飛び降りちゃったけどね」
「風間さんいない状況で誰があの人の手綱を握るんだよ」
 
 下のほうで加古ちゃんたちを見つけたので面白そうだったから建物から飛び降りてみた。
 降りる間際に荒船たちの声が聞こえてきた気がしたけど気にしない。私はやりたいことをするだけだからね!
 
「加古ちゃーん」
「あら、葵じゃない」
 
 降りた先には加古ちゃんのほかに、二宮や諏訪たちもいた。合流した私を見て、一瞬思案顔をした加古ちゃんは笑顔で私に向き直った。
 
「葵も二宮くんが指揮することをどう思う?」
「え、なんの話?」
 
 自然に指揮を取ろうとした二宮の行動に加古ちゃんは不服らしい。
 辺りを見渡したら加古ちゃん、二宮の他には諏訪と嵐山たちという隊長格ばかりが揃っていた。
 
「なにか不服か?」
「いや、不服じゃないけどおもしろくないわ」
「普通は年齢順かランク順だよな」
 
 来馬の発言によってみんなの視線が私の方に向く。
 
「え、私? 無理だよ。指揮するとか性格的に無理だし、そもそも隊長じゃない」
 
 両手を振って否定を並べた後、諏訪の肩を掴んだ。諏訪が二宮に頼ることはなんとなく分かっていたけど、加古ちゃんの不満を少しでも軽減させるためだった。
 
「諏訪しか頼れる人いないわ」
「よし、おめーら。俺が指揮する。二宮なんか案出せ」 
 
 予想通りの言葉に私は腹を抱えて爆笑することになった。諏訪、まじで面白いな。
 二宮の指揮はこうだ。それぞれ大きく3部隊に分かれて、左右に展開。お互いがお互いをフォローできる距離を維持しつつ相手を迎撃するというものだ。
 狙撃手が範囲外から射撃をして、銃手と射手は防御重視の包囲射撃。攻撃手が援護する形となる。
 先陣を切って進んでいってしまっている三輪と米屋の所まで奴さんを押し切ろうという作戦だ。
 
「因みに二宮、一つ聞くけど私はどう動けばいいの?」
 
 二宮に聞けばなぜか周囲の空気が凍った、気がした。
 諏訪と木崎、加古ちゃんたちはなぜか驚いた顔で私たちを見比べているし、それ以外のメンツも同様だ。
 なにかしただろうか。首を傾げながらも二宮の指示を待てば、「任せる」と言う一言だけを貰った。
 
「葵。えーっと、お前……いつから二宮とまともに口を利くようになったんだ」
 
 なぜか恐る恐る聞いてきた諏訪の言葉に一瞬意味が分からなかったけれど、この一言で理解できた。私と二宮が話すのは意外過ぎたのだろう。私が一方的に毛嫌いしているので猶更だ。
 しかし、これには正当な理由があったのだ。
 
「だって、今は二宮隊所属だからね」
「「えっ、はあ?!」」
 
 声を揃えて私に詰め寄った諏訪と加古ちゃんの気迫に押されて一歩後ろへ後退してしまう。
 
「ついに、風間から勘当されたのか」
「勘当違うし。ついでに言うと親子でもないし」
「二宮くんに脅されたの? 脅されたのね葵!」
「二宮にどんなイメージを抱いてるのさ。……普段からあまり喋らないけど嫌いな訳じゃないよ」
「「(いや、あの反応はどうみても嫌いだろ)」」
 
 主に二人が私に詰め寄っているのにも関わらず、二宮は涼しい顔をしているのが無性に腹立ったので、場を去る間際に思いっきり肩パンしてやった。


臨時チーム編成

二宮のターン入ります。