爆ぜろリア充2月14日。 高校とは違ってそこまで雰囲気が変わることはないものの、カフェテリアのブースでは他とは違った色めきたつ雰囲気があった。 カフェブースとあってか、バレンタイン限定のメニューが並ぶ中、俺と木崎、葵と言えるいつもの面々はいつものメニューを頼んでいた。 「バレンタインとかクソ食らえ」 「毎年言ってるよな、それ」 呆れる木崎は既に食べ終えたようでコーヒーを啜っていた。その淡々とした物言いが侮蔑した訳でもなく現実を突きつけられている感じがして嫌だ。視線を一瞬葵に向けるものすぐに大きなため息が零れ落ちる。やっぱりバレンタインとかクソ食らえ、だ。 「今回も風間かー」 「おい、諏訪」 「あ! げっ、すまん」 ぽろりと零した名前に目の前の葵が露骨に不機嫌になる様子が伺えた。 今日の葵は口数が少ない。普段は吊り上げている口角をへの字に歪めて露骨に不機嫌さを醸し出す葵に風間の名前は禁句だろう。 「まあまあ、葵も不機嫌になるなよ。ほらココア」 「ありがと」 「大体毎年じゃないか。なんで今更不機嫌になるんだよ」 そうだ。風間がモテることは今に始まった訳ではない。それはボーダーや大学からの付き合いである俺たちよりも葵が一番知っているはずなのに、不機嫌さを隠そうとしない姿に若干の疑問を覚える。……そう言えば、去年ってこんな感じだっけ? 「カフェテリア入口から50メートル先の木の下」 「まじ、お前そんな所まで見えんのかよ」 「サイドエフェクトも困りものだな」 驚く俺に感心した声色で苦笑いを浮かべる木崎。一瞬黙った葵が小さく口を開いた。視線は窓に釘づけだ。 「“これ、貰ってください! 風間くんがあまり甘いものを好きじゃないって知ってるのでビターで作りました”」 「“ありがとう。貰っておこう”」 「唇の動きでそこまでわかるのか。ここまでくると怖いな」 ランク戦で戦いたくない相手だわ。見つかってたら作戦まで読まれるってことだろ。 風間と女子が居る方向に視線を向けていた葵はふいっと視線を逸らして木崎の渡したマグカップの淵に口をつけた。いつも以上におとなしい姿に木崎と見合わせるしかない。どう考えても不自然だ。 そういえばと去年を思い出す。そういえば、葵はバレンタインというイベントを知らなかったはずだ。 「お前、今日がバレンタインって知ってるのか?」 それまで視線を落としていた葵が俺をみる。ドンピシャだ。 「だったら?」 「……まじか。イベントに人一倍疎いお前がまたなんで」 疑問に思いつつも脳裏に過る一人の女の姿に大体の目星はついていた。 恐らく、加古あたりが葵になにか吹き込んだのだろう。そうでなければ目の前にいる女がこんなにも不機嫌になるはずがないのだから。 そう思っていればゆっくりと葵が口を開く。内容は大体予想していた通り、加古から“バレンタインとは大切な人にチョコレートをあげるもの”と言われていたらしいのだ。 (大砲娘アナザーの“かえせよときめき”参照) 道理で今年は風間の行動を目で追っている訳だと納得する反面、加古に言われるまで気付かなかった葵の能天気さにあきれる他ない。 風間がモテることも知らなかった人間なので、当然と言えば当然なのかもしれない。どう 声をかけるべきかと考えあぐねいている時であった。 「すまん、遅くなった」 「いや、構わないぞ」 このタイミングで入口を潜った風間がテーブルに合流する。手に持っている紙袋には嫌味なほどにチョコレートが詰め込まれていて、涼しい顔をしてやってきた風間はいつも通りだ。 こいつが相手の好意を無下にするタイプとは思えないので、受け取ってくるのは仕方ないが、まじでモテるやつ腹立つという俺の心境は察してほしいだろう。 「どうした神崎」 そして葵の心境を知らずに無言を貫く腐れ縁に小首をかしげる風間。黙ったまま風間を見る葵は如実として立ち上がるのだ。そしてカウンターに足を向ける。 「いやー、若いね。同年齢なのに俺らがおっさんみたいに感じるぜ」 「なにがだ」 「葵は、お前が他の女からチョコレートを貰う度に不機嫌になっていったって話だ」 直接的な言葉を向けるのはなんだか癪だと感じたのは木崎もなのか、分かりやすいようで分かりにくい爆弾を投下したが、すぐに勘付くような男ではない。 案の定、風間は小首をかしげて見せたものの追及する程の興味はないようであった。近づき過ぎているが故に更に近づくことをしない二人なので恋路が進まないのかと部外者が考えてしまうほどであった。 「いい加減にしとかないと、葵に愛想尽かれて他に好きな男でも作るんじゃねーの?」 ふらふらしているといい加減他の男に取られてしまうだろう。葵を狙う男たちを思い浮かべながら忠告の一つでもお節介に告げてみる。個人の問題だと目で訴えてくる木崎はこの際無視だ。お前だってこいつらの関係を見る度に早く付き合えよって思うだろ。 俺の予想では、相変わらず読めない顔つきで大丈夫だとか、心配ないだとか自信に満ちた返答が返ってくる、或いは、興味がないやそんなことないと突っぱねる感じの返答が飛んでくると踏んでいたが、予想外の返事が耳に飛び込んでくる。 「あいつに限ってそれはないだろう。好きな相手が変わることはない」 「「!」」 「それって「風間!」 被せるように葵が声を上げた。戻ってきたのだろ葵の手には並々と注がれた牛乳があり、俺たちは目が点になった。なんで、牛乳? 「風間が好きなもの! 私知ってるんだからね」 その牛乳が風間の前に置かれる。自信満々に胸を張ってみせた葵に俺たち三人は誰も声が出ない。 チョコレートの対抗が牛乳とか、なんて分かりやすいのだろう。女っ気のない葵の行動に俺たち2人は吹き出すしかなかった。 まじでこいつ見てて飽きないわ。 「サービス?ってことでなんとか牛乳って言う高い方を値引きしてくれたんだ! 美味しいと思うよ」 「これを俺に?」 「そう! チョコレートよりうれしいでしょう?」 販売員の男は下心があって葵に提供したものを他の男に回されると思わなかっただろうな。葵の頭を無言で撫ぜる姿をみつつ、よくよく考えればバレンタインの意味を知っているのならどうして俺や木崎にはなにもないのだろうと考えて少し切なくなった。 「(しかし、)」 風間が小さく、しかしはっきりと告げた言葉を思い返してみる。 「どういう意味だ?」 爆ぜろリア充 ちょっと恋愛フラグを立てたくて意味深な発言をぶっこんでみた。 落ちキャラをぼんやり思い描いています。きっとその通りに落ちないだろうけど。 20160901 ← |