研究職の性「えー、このメンツだったら絶対に私いらなくない?」 合同防衛任務だと言われて集合場所に集まれば、我らが風間隊のほかに、太刀川隊と東隊が一緒であった。 今回は事前に予測されたゲートが開くかもしれないということで、多い人員が配置されたそうであったが、東さんいれば百人力だと思うのは私だけなのだろうか。少なからず、同じ狙撃手に居る私は不要だと思う。けれど、 「風間たちと同じか。安心できるよ」 「東さーん! 東さんのために私、頑張るよ!」 私たちを見渡して笑みを浮かべる東さんマジで紳士だ。手を大きく振って存在をアピールすれば、東さんの両サイドにいる奥寺と小荒井が手を振り返してくれた。い、癒しだ……! 「おいおい、葵さん。俺らのことを忘れちゃいないだろうな」 「忘れてないよー。忘れたくても存在感ありすぎて無理だ」 いつみても太刀川隊のロングコートはコスプレ感が半端ない。まあ、二宮隊のスーツも一周回ってコスプレ感半端ないけど。 まあ、百歩譲って出水は顔が整っているからセーフ。その基準で言えば太刀川もクリアだと思う。けれど、あいつはダメだろ。 「葵さーん! 貴女の唯我が全力で貴女をお守りしまへぶっ!」 「あ、ごめん。ラッドが居るかと思ったけど間違いだったみたい。目が良すぎるのも困るわー」 両手を上げて走ってきた唯我の首をスコーピオンで飛ばした後、満面の笑みを添えてみせた。おいおい、引くなよきくっちー。いつもの光景じゃない。 尻もちをついた唯我の手を握って立ち上がらせる。 「唯我が傷ついたら親御さんに顔向けできないからね。防衛任務は私がこなすから、唯我は本部に戻っていいよ! ハウス!」 「〜〜っ、葵さあん」 本部から見守ってますなんて言っていいながら走って逃げていった唯我の言葉を聞き流しながら、手に持っていたスコーピオンをアイビスへ転換させる。 「さあ、邪魔者が居なくなったことだし、暴れますかー」 「俺の幻聴じゃなかったら葵さん、さっき唯我に“ハウス”って言わなかったか?」 「ほんと容赦ないな」 本来であれば、指揮を取るのはA級1位である太刀川隊であるのだが、隊長の太刀川は戦術で役に立たないので、代わりに蒼也が指揮することになったらしい。 各自の位置取りの決めて指定されたポジションへつく。風間隊は本部から遠い北側担当。南側に奥寺と小荒井を配置させ、本部には攻撃力のある太刀川と出水を配置した。勿論これは大体の配置であって、A級上位と東さんたちになれば細かい指揮がなくても各々で動くことが出来るのだ。 そして私は本部上を陣取り、内部無線を使って東さんと話していた。 「そういえば葵。聞いた話なのだが、玉狛支部をえらく買っているそうだな」 「えー、そんなことない気がするけどなあ。まあ、最近の新人としては面白いですよ。迅の後輩だって感じがするし」 「次に戦うのが楽しみだよ」 「あ、そういえば東さんたちですもんねー。B級上位ってA級と変わらないくらい楽しいから楽しみだなあ。奥寺と小荒井の成長した姿もみたい」 「はははっ、楽しみにしておいてくれ」 そんなやり取りをしている間にも奴さんが顔を覗かしてきた。遅れてやってきたゲート開通のアナウンスが鳴り終わる前に奴さんのコアをアイビスで撃ち抜いた。 「葵さん、手ェ抜いてよ。俺らの楽しみなくなるじゃん」 「菊池原と逆のことを言うね太刀川。まあ、楽しみは分け合いましょうかッ」 バックワームを脱ぎ捨てて、グラスホッパーを使って宙を駆ける。建物と建物の上を移動すれば、太刀川と並んだ。 「どっちが多く倒せるか競争ってのは?」 「乗った。負けたら晩飯奢りね」 次々と開くゲートを前に私たちは武器を奮う。カメレオンを起動させた蒼也たちが目にも止まらぬ速さの連携で敵を倒して、太刀川の旋空弧月が空を舞う。出水の合成弾と東さんのアイビスが的確に敵を撃ち抜き、私はスコーピオンで敵のコアを突き刺した。 「久しぶりに動くけど、攻撃手楽しいわ」 「よそ見するな神崎」 「うわっと」 攻撃してきた敵を避けてスコーピオンでカウンターを狙ったらその前に蒼也たちに瞬殺されてしまう。しかし、こうも攻撃力が高いとすぐに片付いてしまうのが難点と言えるだろう。かと言って戦力を下げられるのも気分良く戦えないしなー。 「そもそも、バムスターとモールモッドばっかりなのが悪い。以前みたいにラービット来い!」 「無茶言うな」 本部に帰ったら太刀川相手にランク戦しようかな。きっと無様に負けるんだろうけど、気分よく戦えるのは確かなはずだ。と言うか、このさい蒼也でもいい。 「あ、そうだ! 東さんみて。私の新作」 「んなっ!」 試作品のイーグレットを取り出して相手に向かって放つ。イメージはメテオラだ。 東さんに見せようと思ったのに、なぜか出水が驚いていたのに驚く。まあ、射手だから驚くのも無理はないのかもしれないけど。 「イーグレットに散弾銃要素を混ぜてみましたー。威力はイーグレットの性能をキープしたまま、着弾する時に爆発することで威力を拡大させたの。短所は散弾銃になったことで命中性にかけるのと手元が狂いやすくなるからそこが難点だけど、改良していけば使えると思うんだ! ちなみに、爆発させる仕組みはプロペラントを少し弄ってハンドガン用に寄せて、けどプライマーの種類はイーグレットそのものの長所を残したかったから弄っただけ。因みに、内臓させてるプライマーは」 「うわあ、葵さん語りだした」 「こうなった時のあいつは満足いくまで喋り続けるだろうな」 話すだけじゃ落ち着かないので、グラスホッパーで東さんの所まで跳んで、実際にイーグレットの内部を開いてみせる。始めは頷いていた東さんも中身を出せば気になったのか前のめりになって話を聞いてくれるのだ。 「あー、冬島さんとも防衛任務一緒だったらよかったのに」 「「それ防衛任務にならないから!」」 私の呟きに太刀川と菊池原が一緒になって声を上げる。あんなに沢山開いていたゲートは今や見る影もなくて、関心する東さんにこのままラボに行って、冬島さんやエンジニアさんと共に改良計画を進めようと申し出るのだ。ついでに雷蔵も呼ぼう! ……え、ランク戦? それよりこっちでしょ! 研究職の性 「俺、風間さんの苦労が少し分かったかもしれない」 「……ああ、察してくれ」 20160817 ← |