大砲娘と世界征服論 | ナノ



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「いやー、どうもどうも。あ、葵さんに風間さん、さっきは後輩をどうも」
「やっほー、さっきぶりだね」
 
 会議室に遅れてやってきたのは迅と三雲くんに空閑くんだった。
 今から行われる会議の概要を聞けば彼らの存在が必要不可欠になってくるのは何となく分かるものの、ネイバー嫌いな城戸さんからすれば中々の寛容さじゃないだろうか。
 司会進行は忍田本部長のようだ。これまでのトリオン兵の出現の数々から第二の大規模侵攻を危惧しての協力依頼であった。何度か遠征に出ており情報を集めているものの、鬼怒田さんが情報が希薄であると嘆いていたことを知っていた。けれど、そんな数少ない情報と空閑くんの力を合わせれば攻撃してくるネイバーの全体像がはっきりするのではないかということが狙いだ。
 私は以前に起こった大規模侵攻を思い出していた。前のようにならない為にも彼らの力が必要なのだ。
 状況が読み込めたのだろう。空閑くんはレプリカと言う名の多目的型トリオン兵を取り出してきた。それが彼の父親であるユウゴさんによって作られたものであると知る。
 
「私の中にはユウゴとユーマが旅してきた近界の国々の記録がある。恐らく、そちらの望む情報も提供できるだろう」
「「!」」
「――だが、ボーダー内にはネイバーに対して無差別に敵意を持つ者も居ると聞く。私自身ボーダー本部に信用を寄せていないことから、一つ約束させてもらいたい。ボーダー最高責任者殿に私の持つ情報と交換してユーマの安全を保証を約束させて頂きたい」
 
 成る程、確かに必要な約束と言えるだろう。
 ネイバーに対抗する組織であり、彼の言う通り、敵意を持つ相手はごまんと存在するのだ。彼の安全を保障させるあたりが彼のお目付け役と言う訳だ。
 しかし、口約束だけではどうにでもなる約束とも言えたが、三雲くん、そして城戸さんを真っ直ぐに見る空閑くんの様子を見れば何かしらの秘策でも隠しているのだろう。
 
「(ブラックトリガー使いって聞いてるからトリオンも常人より多いはずだ。サイドエフェクトとかあるのかな。城戸さんの言葉の裏を嗅げるサイドエフェクト、うーん、嘘が分かるとか? 影浦みたいに感情の機微が伝わるとかかなー?)」
 
 どちらにせよ口出しする気はない。
 レプリカからしてみれば私もボーダーの一員で信用に値しない側の人間だ。
 それに、口出しせずとも状況が好転することを知っているからでもある。
 
「よかろう。ボーダーの隊務規定に従う限りは隊員、空閑遊真の身の安全を保障しよう」
 
 城戸さんはネイバーが嫌いだ。しかし、決して頭が固い人間ではない。
 レプリカの持つ情報量は未知であるものの、ボーダーという首輪のついたネイバーと、侵略してくる恐れのあるネイバーたち。どちらに天秤が傾くのかは明白と言えた。

「(最も、隊務規定に従えばってことは、反した場合の扱いは考慮されてないってことだけどねー)」
 
 そこまで城戸さんが考えているかは分からないものの、彼の発言に顔色を変えない空閑くんの姿をみれば、影浦とはまた異なったサイドエフェクトであることは確実だろう。
 頬杖を付きながら無言で対立する城戸さんとレプリカを見やった。しかし、沈黙は早くも打ち破られ、レプリカが惑星国家の説明を始める。
 ――惑星国家。
 ネイバーたちの国は星のように宇宙を漂うという。決まった軌道を描きながら常に動いている国を惑星国家と名付けたのだという。
 地球への侵略を果たそうとするのは、そんな浮遊する惑星国家の中でも、地球に軌道が近づいた時のみ門を開けるのだ。つまり、今から侵略してくる可能性のある国というものは、今現在地球に近づいている国ということになる。
 今までの調査でそこまでの推測は出来ているのだ。伊達に数々の遠征にいかされてる訳ではない。
 ただ、私たちボーダーの不明点はその国が何処の国であり、且つ、戦力が如何ほどであるか言うことであった。
 先入観は良くないと思うものの、備えが無ければ此方とて対処することが出来なくなる。鬼怒田さんが声を上げるのを聞いていれば、レプリカが今ある配置図に更なる情報を加えた。
 それにより私たちの調べ上げたもの以上の配置図になり、その場に一瞬の静寂が訪れるのだ。
 
「あはー、やばいねえ、これ。これにプラスアルファして乱入してくるのも居るんでしょ?」
「葵殿の仰る通り、乱星国家と呼んでいる特定の軌道を持たない国も存在している。細かい可能性を拾い上げればキリがないが、大国で今現在近づいているのは4つ。いずれも軍事力で言えばどれも油断できない国家ばかりと言える」
 
 今までウチにやってきたトリオン兵は爆撃型トリオン兵と小型の偵察トリオン兵だ。そこから考えられる惑星国家は2つだという。
 厳しい気候と地形が敵を阻む雪原国家“キオン”、そして、軍事力最大級と言われる神の国“アフトクラトル”。何れもブラックトリガーを複数有している国家らしい。
 
「ねえ鬼怒田さん。遠征用の船ってトリオンで飛ばしてるから大容量の人間は入れないよね? 基本的に小型化が出来るトリオン兵が主力な訳だし」
「まあそうなるな」
「それならブラックトリガーが来る可能性は省けないけれど、来たとしても少人数だと仮定出来るから、人型ネイバーの攻撃も加味しつつトリオン兵軍団を対策を講じた方がいいかもしれないね。忍田さん、防衛体制の編成変えてみない? 防衛任務の人員も調整したいし、待機組も考えないといつ奇襲が来るか分からないし」
 
 警戒区域から出さないようにしないといけないから、レーダーの精度も今一度メンテしといたほうがいいかな。配置図から分かる侵略予定日も算出したいし、今してる武器の改良も急いだほうがいいかな。
 
「(葵さんってマイペースなイメージあったけど、実は結構、上層部寄りなのか?)」

迎撃準備
20160510