短編 | ナノ



博愛主義のテロリスト



「あ、クロ。おかえり」

 クロが帰ってきた。時刻は夜中に差し掛かり、帰宅部の私からしてみれば遅くまで自由な時間が奪われる部活に熱中出来る考えが分からなかったけど、自由な時間全てを費やしてでもバレーが楽しいのだろう。それでもやっぱり私には分からない感覚だけど、クロが楽しいのならいいかと思う。

「名前、また居たのか」
「居たら悪い? おばさんに頼まれたの。鉄朗をよろしくね、襲われちゃダメよって」
「……最後のは言わなくていいし」

 おばさんことクロのお母さんは今日同窓会とからしく、家を空けるそうだ。高校生だから家に一人居ても問題ないけど料理が出来ないクロのために私が留守番を買って出た訳だ。
 そんな背景を知ってか、クロは小さなため息を零して苦笑いを浮かべた。その表情に諦めが浮かんだことを私は見逃さない。

「まあまあ、おばさんも心配なんだよ。いいお母さんじゃない」
「だからって女を一人にしておくかよ」
「え、なになに? 私が心配?」

 眉間に皺を寄せた彼を見て笑いながらキッチンに入る。晩ご飯の準備は万端だ。

「ご飯冷めちゃうから先に食べてね。食べ終わる頃にお風呂沸くように設定しておくから」
「名前は?」
「私はもう帰るけど。……あ、冷蔵庫にクロの好きなプリンも買って冷やしてあるから」
「マジか」

 そう言うなりクロは私を抱き締めた。現金だと思いながらも彼からの抱擁を受け止める。食事にお風呂、オマケにプリンを準備しておけばクロの機嫌が良くなることを私は知っていた。
 制汗剤の匂いを感じながら疲れを労うように背中をぽんぽんと規則正しく撫ぜてやる。ぎゅうっと遠慮がなくて力強い抱擁が私はすきだ。

「名前、お前すげえ良い嫁になれる」
「クロの?」
「俺の!」

 プリン1つ加えただけでなんて大袈裟な。慎重派で大きく出ないのが常であったのに、そんな彼を呆気なく崩してしまうプリン恐るべし。

「(ま、一番は私の作戦勝ちかな)」

 にやりとほくそ笑んだ私は額にキスを落とすクロを見て目を細めた。
 全てが私の考えた通りの展開であることなんて、きっと貴方は知らないのでしょう。
 
END