短編 | ナノ



成る程、我々の敵は運命と言うことか

 
「山崎くん、すきです」
 
 人生で初めての告白をした。
 それは同じクラスの男子生徒で山崎くんと言う男の子だった。
 彼は真面目で勉強も運動もそつなくこなしてしまう優秀タイプ。顔も格好良く爽やかで、例えるのであればボーダーの嵐山さん、みたいな。
 テレビの中の人と比べてしまう程に、私は彼に好意を抱いていた。
 関わったのは席替えで前後になった一ヶ月間だけであったとしても、私にとってはかけがえのない時間であったのだ。
 放課後の人気の居ない廊下の一角。私はそんなベタな場所で彼に思いを打ち明けた。
 胸の中に溜まっていたわだかまりが告白することで雪のようにゆっくりと解けていくのを感じた。心臓の音は五月蠅いし、寒いこの時期なのに急に暑く感じて扇風機が恋しく思ってしまうし、言葉に思いを乗せたものの、目の前の彼がどれくらい私の思いを汲み取ってくれはたか分からない。
 それでも、それでも私は彼に自分の思いを打ち明けたことに後悔はなかった。
 
「ぶっ」
 
 一世一代の告白。人生初の告白。
 その行く末を案じる間もなく第三者の声が聞こえてきたのに唖然とするしかない。
 廊下の角から顔を覗かせたのは同じクラスの出水だ。
 唖然とする私を余所に、お腹を押さえて吹き出すようにして笑う彼の顔が、笑い声が、私の心を確実に抉っていくのを冷え切った頭の片隅で理解した。
 
「ぶはははっ、今時こんなベタな所で告白はねえだろ。なあ、山崎?」
「おい、出水」
 
 山崎くんの制止の声が何処か遠い所からの声のように思えてならなかった。
 私の全神経は一瞬にして出水に向けられており、彼の挙動の一つ一つが頭に刻まれていく。
 
「……」
 
 一世一代の告白を、人生初の告白を目の前の男によってブチ壊された。
 芯から冷え切った身体を叱咤し、出水に顔を向けた。そしてその後に山崎くんへ視線を向けるのだ。
 
「名前さん、」
「山崎くん、時間を取らせてごめんね」
 
 この時に出水に向けて暴言の一つを吐かなかったのは私の中にあった山崎くんへの恋心が歯止めをかけていた。
 以前、クラスメイトの男子たちで話していた“好みのタイプ”。彼は好みのタイプを控えめで清楚な子だと説いていた。
 それを聞いて、到底無理な話だと思った。けれど、彼の前では少しでも女の子として意識してほしくて、言葉遣いも丁重に選んできた今までがあるのだ。その名残が私に歯止めをかけるのだ。
 
「部活、頑張ってね」
 
 その言葉を最後に私は山崎くんから顔を背け、教室に残っているだろう自分の鞄を取りに戻ることに決めた。
 教室には友人たちも待ってくれているしこの告白も成功するとは思っていなかった。
 
「っ、」
 
 それでも第三者によってブチ壊された告白の行く末は実に不完全燃焼で、胸の中に新しいわだかまりを生み出す。込み上げてきた感情を押し潰そうとすればするほどに目頭に熱が集まり、泣きそうになる。下唇をぐっと噛んでこの場をやり過ごそうとする。そうした原因は足早に廊下を掛ける自分の足音とは違う足音が付いてきているからだ。
 廊下の角を曲がった刹那、後ろを振り返った。着いてきているだろう出水が角を曲がった瞬間に彼の胸倉を掴んで壁に押し付けるのだ。
 
「おお、これが壁ドンってやつか」
「ねえ、なんであんた邪魔してくんの?」
 
 呑気に呆けている出水を睨みつける。
 見上げる私に気付いてか、出水は口のへりを吊り上げて笑うのだ。
 
「お前が山崎に告白っつーのが笑えた。ただそれだけだけど」
「っ、あんたほんと最悪ね。あの場所に山崎くんが居なかったら殴ってたわ」
 
 胸倉から手を離した私を見て解放されたと思ったのだろう。壁から背を浮かせた彼を見て、私は彼の頬を全力で殴るのだ。
 だんっ、
 激しい音が閑散とした廊下に響き渡る。
 女の力と言えど油断した瞬間の攻撃に出水は壁に背を打ち付け、地面に座り込んだ。
 
「痛っ、」
「居なかったら殴るって言ったでしょ。なんでついてきたか知らないけど、泣くとでも思った訳? それを見てバカにしようと思った訳? ……二度と私の前に現れんな」
 
その場から去った私に向けて出水が何か呟いていたなんて、知らない。
 
  
成る程、我々の敵は運命と言うことか

ゲス出水を書こうとしたけど途中で挫折した。
あと、公開するの忘れてて2ヵ月経ってた。