短編 | ナノ



消えゆく君へ

 
※夢主出てこないです。
 
彼女にフラれて知ることがあった。
それは、自分がそんな人間だったのだと言う新しい発見と、昔から知り得ていたことだ。
高校の時に付き合っていた彼女に振られる時の文句は大抵が決まっていたように思う。新しい男が出来たとか、好きじゃないとか、今の関係が嫌だとか。その時は飽く迄も俺と彼女を比較したときの感情のバランスが原因であったりする訳だ。
けれどどうだろう。歳を重ねてフラれてみれば、存外その言い訳ともいえる文句は異なるものになるのだ。
 
「岩ちゃーん。フラれた」
「はあ? またかよ、お前」
 
大学の友人や岩ちゃんをはじめとする高校からの友人とよく飲みに来る居酒屋。手始めのビールを頼んだ俺は唐突にその話題を口にした。
 
「で、なんてフラれたんだよ」
 
先に届いた枝豆に手を伸ばしながら、岩ちゃんはなの感慨もなく聞いてくる。
 
「つまらない男だってさ」
 
彼が枝豆に伸ばす手を止めて俺を見た。それに対して反射的に笑みを浮かべてしまう。
岩ちゃんはどう思っただろう。そんなことかと内心鼻で笑ったのかもしれない。けれど、それが事実だ。
高校を卒業して、大学へ進学し、社会人になる。正直俺みたいなスペックの男は男女の集まりに行けば決まって誰かをゲット出来るのだ。時として俺と同じようなハイスペックの子っであったり、平凡な容姿であるものの笑顔の可愛い子、少し引っ込み思案な子。色々付き合ったきた。けれど、中学高校のような別れ話は浮かび上がってこない。
セックスが下手だとか、嫌いな体臭だったりだとか身体のこととか、実は不倫なんですや子持ちですと言った事後報告的な内容だったりだとか、ある日急にメールの返事が返ってこなかったり電話の着信拒否と言った無言の別れ話。就職している仕事から将来が不安といった金銭面の問題もある。勿論上記の内容はあったりなかったりする訳だけど、少なからず気持ちとは違った面でもフラれてしまう。なんて不条理な話なのだろうか。
 
「因みに、つまらないと言うのは話内容らしいよ。返事から話が膨らまなかったみたい」
 
俺が無意識に送っていたメールが彼女を苦しめた。話が広がらないことに彼女は一体どれだけ悩み、俺を“つまらない男”と評価したのだろうか。
 
「けど、お前は話上手だって言われてたぞ」
 
不意に思い出したように突拍子もなく彼は声を上げた。岩ちゃんの言葉はよく聞く俺のスペックだ。自分でも話上手だと思うし、自然に知りたいことを聞き出す話術も心得ていると思っている。
けれど俺はゆっくりかぶりを振った。そして運ばれてきたビールに口を付けるのだ。
 
「きっと、それ以外にも嫌いになる理由は沢山あったはずだよ」
「なん」
「別れる口実を探したんじゃないかな。っ、好きじゃないってはっきり言ってくれたら良かったのに」
 
一瞬だけ言葉が喉でつっかえた。
それを気付かれないように自然に枝豆に手を伸ばす。
 
「また新しい子を探すよ」
 
学生の時のように限られた箱庭に居る訳ではない。出会いも豊富にある。
あと、数十分後すれば、俺は岩ちゃんと最近あった面白い話題で盛り上がるだろう。時間を忘れて話して酒を煽って、時計を見て慌てるんだ。そのまま帰宅して、酒に踊らされたまま眠って朝を迎える。
 
「……いつだってそうして忘れてきたのに、可笑しいな」
 
彼女の泣きそうな顔が頭から離れないよ。
 
20150424