短編 | ナノ



かみさまになりたい。

 
正月企画、縁下と男主
 

「あっ縁下! おーい!」
 
その声と背中の衝撃は殆ど同時で、俺の背中へタックルしてきた張本人が駆け出してきたのがすぐに分かった。
多少よろけつつ後ろを振り返れば、屈託のない笑顔を浮かべた名前が居て、怒ろうかなと思っていた自分の気持ちは一瞬で霧散してしまう。
 
「おはよう。相変わらず元気だね」
「朝って、こう……元気でない? あ、ご飯食べたすぐだからかな」
 
自分で考えて、発言して、笑う。名前はいつも一人で忙しそうだ。
最終的には俺に同意を求めてくるので、かく言う俺もつられて笑顔になってしまう。
 
「でさー」
 
俺の隣に並んで歩き始める彼は昨日家であった出来事を俺に打ち明ける。
名前は不思議だった。
烏野高校2年で男子生徒。俺と同じクラスで、身長は俺と同じくらい。よく笑うのに笑い方は上手くなくて、いつも眉尻を下げて悲しそうに笑うのだ。見慣れた側としては気にしないけれど、ふとした時に自分の笑い方が好きじゃないと告白する。ごく普通の小さい悩みから大きい悩みまで抱えた同性。それが名前だ。
けれど、クラスメイトも今年で2年目に突入し、常に彼の隣に居て周囲から仲が良いと言われる俺からしてみれば、名前と言う存在は実に不思議だったのだ。
 
「縁下?」
「、なに?」
「なんで百面相してんの」
 
俺の顔を覗き見るようにして、彼は首を傾げた。あ、話聞いていないのバレたかな。誤魔化すように笑顔を浮かべると、名前は見るみる不機嫌になっていく。
こう言う時の彼は厄介だ。他クラスの田中や西谷たちの対処法とも言えるあしらい方はよくよく心得ているのに、彼のことになると全く頭が上がらない俺がいるのだ。
 
「あーあ、縁下がつめたいー。西谷にチクってやろ」
「なんで西谷なのさ、」
「俺の代わりにドロップキックとかしてくれそうだから」
 
お、笑った。何処がツボだったのか分からないけど、機嫌が悪いまま学校へ着くのも後味が悪しクラスメイトたちにやいやい言われるのも面倒だ。“ドロップキック”のワードがきっかけか、プロレス技を覚えるのも色々と便利かもしれないと真剣に悩み始める友人の姿に今度は呆れる他ない。
名前と一緒に居れば彼が百面相をするように、俺までもころころと表情が変わってしまう。普段は落ち着いているなと定評がある俺も彼の前では形無しと言うことだ。惚れた弱みなのか、隣に居る男の愛嬌のせいか分からないけれど、そんな自分が新鮮で少し嬉しい。
 
「あ、でもドロップキックより飴玉のほうが好きだなー。なんでドロップも色んな使い道があるのだろう」
 
うーん。真剣に悩み始めた時、彼は決まって腕を組む。一度考え始めれば納得いくまで考え込んでしまうのだから俺は小さくため息を吐き出して苦笑いを浮かべるのだ。
 
「(学校に着くまで観察していようかな)」
 
眉間に皺を寄せたり、口元を綻ばせたりする姿は俺からしてみれば不思議だし、見ていても飽きないのが不思議だ。
そんな彼に恋心を抱いてしまった自分も不思議だし、結論を急げばやっぱり名前は不思議と言う言葉がぴったり当てはまる気がする。

「あー、かみさまになりたいなあ」
「! えっ、ええ! いつから全知全能になりたいと思ってたの!?」
「いや、そうじゃないけど」
 
かみさまになったら分からないことなんてないのだろう。
もし俺がかみさまになれば、隣に居る摩訶不思議で俺には理解出来ない宇宙人のような考えがころころ変わる名前の心情を理解出来るかもしれないし、そんな彼が好きでどうしようもない俺の気持ちを上手い具合に伝えることが出来るかもしれない。
 
かみさまになりたい。
 
普段は自分が突拍子の無い発言をするのに、俺が脈絡のない発言をするだけで慄く友人とどうにかなりたいなんて、欲張りすぎるだろうか。
 
……
ななこさまリクエストです。
実は番外編以外で男主の短編って書いたことなかったのですが、縁下と聞き気合十分でした。
縁下の恋愛は常に苦労してそうなイメージがあります。
リクエストありがとうございました。
20150109