短編 | ナノ



沢山の愛を頂戴!

 
?クリスマスネタ
 
「クリスマスなんて俺には関係ないね。大体、なんで海外のイベントで盛り上がるのだろうか? 日本人なら正月だけで十分だよね」
「ほんと調子の良いこと言うよね。彼女が居た先週まではクリスマス万歳! とか言っていたのにさ」
「そっ、それは別!」
 
 こたつに入りながらぶつくさと文句を言う及川を見て、さてどうしたものかなと思案する。恋人出来てもすぐに別れてしまう彼をなんとかハッピーな、それこそハッピークリスマスと言える日にしてあげたい。そんな思惑が私の中に潜んでいるとは知らない目の前の腐れ縁は、彼女を作らずにクリスマスを迎えてしまった。
 いや、正確に言うと彼女は作ることが出来たのだ。非常に不本意ながらルックスと顔はモデル並だから寄ってくる女は沢山いるのだ。ただ、及川の性格上、長く続くことはないので結局は彼女が出来なかったと同じ表現でも問題はないと思う。
 
「なにが“迎えてしまった”なのだ。そういう名前も一緒に迎えてるからね」
「けど私、“恋人たちのクリスマス”を過ごしたことあるから」
「……」

 ちらりと横目で私を一瞥した及川は隠すことなく舌打ちをして、籠の中に入っているみかんを手に取って剥き始める。みかんにこたつ……完全に正月モードだ。
 まあ、私たちの年齢で過ごす“恋人たちのクリスマス”なんてたかが知れてるし、恋人がいない子の方が多いから及川だけではない。けれど、向かいに座って不貞腐れている男はマッキーみたいに手先が器用で気の効く男でも、岩泉みたいに少し暑苦しいスポーツマンな訳じゃない。お嬢様みたいな性格の顔だけ男である及川は長年彼を見ていた私からしても残念で、最短1週間でフラれる理由も分かる。仕方ないから手を貸してあげようと思うけれど、本人がフラれる理由を理解していないのが残念な所だ。


「あ、そだ。時給850円」
「は?」
「だーから、時給850円だって。そんなけ払ってくれるなら、私が今日一日恋人やってあげる」

 画期的な考えだと思わない? そう続けた私を一瞬飽きれた顔で見た及川はすぐに顔を逸らしてみかんを剥き始めた。先程と違う所と言えば、隠されていない耳が真っ赤に染まっていることだろう。

「名前ちゃん、バカなの? そんなこと言って、仮に俺がキスしてもセックスしても許せるの?」
「うん、いいよ」
「なにい「いいよ。及川だし。……私、及川のこと好きだから」
 
 この一言でを聞くや否や、ごろりと剥きかけのみかんが机の上に落ちた。唖然とする顔は中々のバカ面だ。落ちたみかんを拾った私は残りの皮を剥いて口の中に入れる。ちらりと盗み見た時計はまだクリスマスまでの時間が残されてることを示してくれていた。
 
「はっ、え?」

 戸惑いながらも何とか脳内で私の発言を反芻し、理解しようとしているのだろう。その姿は簡単に見れるものではないので貴重だ。
 
「で、答えは?」
「……クリスマス限定の短期じゃなくって、正式雇用じゃダメ?」
「んー、及川に免じて時給はいいよ。その代わり、」
 
沢山の愛を頂戴!
(えっ、は、ちょ)
(無理なの?)
(大丈夫デス)
 
昔のリメイクです。ヘタレ及川もいつか書きたい。
20141224