それは愛憎、またの名を狂喜。










彼女の事が嫌いだ。
きっとこの世でこんなに彼女の事を憎み恨んでいるのは僕くらいだろう。




いっそ殺してやりたいところだが生憎僕と彼女の関係は主人と下僕関係であり恋人関係

下僕が主人の腕に噛み付こうなど死罪も同然





だが精神的に痛めつける事は出来る。
身体に害を成さない為誰も気付きはしないだろう






「御狐神さん、おはよう」





僕に言葉を紡ぐその声が嫌いだ
いつもその優しく甘ったるい声色で周りの人間に愛想を振りまいているんだろう

然りげ無く見せる微笑も大嫌いだ
誰にでも笑みを浮かべている、僕だけに見せてくれる笑顔が欲しいのに。





今日も貴女は僕の気なんて知らず皆に挨拶をして声を掛け、触れる。
僕の事なんてこれっぽっちも彼女の頭の中に入ってない
送り迎えだって僕はただ、なまえ様の一歩後ろを引っ付き虫の様について行き差し出される手に感謝と嫌悪を抱いて、その手に自分のそれを重ねた。




「ねぇ、御狐神さんは私の事嫌いでしょ」




勿論、嫌いなんて安易な言葉じゃ済まない程嫌い





「何を言ってるんですか、?」

「私を見る顔、鏡で見たら分かるよ。」

「………………」





いつもそんな酷い顔で見ていたらしい

感情など表に出さず、ただ平然を装って微笑だけ顔面に張り付けて生きてきた僕が

吃驚した半面、憎く恨みつつもそんなに彼女に自分を左右されていた事に腹が立ち、おまけに滑稽に感じた






「嫌いな訳無いじゃないですか」

「そう?…なら私の勘違いかな」

「きっと、そうですよ」






一瞬だけ悲しい笑顔を浮かべ、また何事も無かったかの様にまた前を向いて歩き出す彼女に嫌気が差す


もっと、僕の事で頭を抱えて笑えなくなればいいのに。













(ただ、愛されてる証拠が欲しいだけ)



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