恋慕を隠し思慕を表す。
生まれ変わった貴女の中には前世の僕の姿なの一欠けらも無かった。
昔の、恋人同士だった頃の記憶は抹消されて貴女は今此処にいる
それに彼女には既に想い人がいるのだ
だからそれが運命なのだと僕は察し、恋人同士だった頃の昔話を話したところで彼女を困惑させるだけ思い、ずっと背中だけを見つめ、一歩後ろを付いて歩き、溢れんばかりの恋慕を抑えていたが限界が近づいた時、小賢しい頭が卑怯な手札を切り出した
いとも簡単に近付けて彼女に触れる方法
メリットがある分、充分にデメリットもある
僕が不要になった場合直ちに捨てられる。
それでもいいから彼女に少しでも触れたいと思う僕は傍から見ると滑稽極まりないだろう
「なまえ様、」
「ん?どうしたの深刻そうな顔して」
「僕をあの人に代わりにしてもいいんですよ?」
「!?……何言って、」
「僕はただ、これ以上あの人の事で寂しそうな顔をするなまえ様を見ていたくないだけです。…そんな顔されては下僕の僕でも心が痛みます」
彼女はそこら辺の女性の様に無駄に着飾ったりしていないし、どこまでも誠実で無垢な人
だから少々手こずる事を承知で彼女に言葉を紡いた
そして僕は未だ驚愕して目を丸くさせて瞬きをしている彼女の綺麗な黒髪を指で掬い、小さく口付けた。
「知っていますか?髪への口付けは思慕を表すのですよ」
彼女の透き通る様な白い頬を手で包み込み、優しく微笑を浮かべると彼女は顔を真っ赤に紅潮させて俯いてみせた
そんな然りげ無い全ての仕草に心を揺らさせる僕は大分重症だ
「ほら、僕をあの人と思って触れていいですよ」
彼女の手首を捉え、自分の胸板に当てさせる。
こんな風に男に触れるのは初めてなのだろうか俯いたままで一向に僕の顔を見てくれない
それとも罪悪感が彼女を邪魔しているのだろうか
どちらでもいい、唯、貴女に触れられれば。
なんて考え彼女を騙す僕はやっぱり狐だ
(そしてまた髪を掬い口付ける。)