Trick or treat-3
荷物が届いた。 差出人の名はシャンクス。 嫌な予感しかしない。
受けっとってしまったそれを、そのまま海に投げ捨ててやろうかと考える程度には、嫌な予感しかしない。 しかし気になるのは受取人の名が自分とナマエになっていることである。 (奴め…ナマエにまで何を送ってきた) 投棄するのは中を確認してからでも良いか…と、甘いことを考えたのが運の尽き。 この後まんまとシャンクスの思惑にハマることになるのだが、今回に関してはまぁ…中々の働きをしたと褒めてやってもいい。 ナマエの体のサイズをいつ、どこで、どのように知り得たとのかいうことに関しては、問い質すつもりではあるが――。
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状況が状況なだけに出来ればナマエと出食わしたくは無かったが、そんな時こそ見つかるものである。 目を輝かせて「その包みはなに?」と問われ、返答に窮する。 その包みがシャンクスからのものであると割れるまで、僅か数秒。 世界一の剣豪もナマエが相手では形無しである。 結果リビングのソファに落ち着いて、ナマエは隣で嬉しげにその包みを解いている。何が出てくるのか恐ろしい。
「うわぁ!」
包から取り出されたそれは、布であった。 ズルリと長い黒い布はスリップ型のワンピースで、複数の布を縫い合わせ所々穴が空き、ほつれたような縫製になっていた。 明らかに”魔女のドレスです”と言いたげなデザインである。
「帽子まであるよ、ミホーク」
なるほど、包みがやたらと大きかったのはこいつの所為か…といかにもな魔女の尖った帽子を見下ろす。 これを着てハロウィンパーティーでもやれとでも言いたいのか、あの男は…。 ミホークの心中は兎も角、一方のナマエは大喜びである。
「ちょっと着てくるよ!」とあっという間に部屋を飛び出し、瞬く間に着替えてヒラリとその裾を踊らせた。 「似合う?」 「…うむ」
悪くない。 送り主が誰であるかを考えなければ、悪く無い処か中々どうしてとても良い。 ほつれた穴から除く素肌が非常に扇情的である。
そのまま踊るように舞い戻ってきたナマエはソファにふわりと座りなおし、残りの小さな包みを開き始めた。
「あ、手袋もあったよ」
言いながら肘まであるその黒手袋をすみやかに装着したナマエは、ご機嫌である。 手袋をしたことで、むき出しの肩から肘上までの肌が余計に艶かしくなる。 シャンクスめ…押さえどころが正確すぎて腹立たしい。
「…あ」
そこでナマエの手が止まった。 箱の中から取り出した包みを手に、こちらを見上げている。
「ねぇ、ミホーク」 「…なんだ」 「ちょっと口開けてくれる?」 「……」
包を開けたナマエが手にしているそれは…付け牙である。 嫌な予感がここに来て的中した。 上機嫌の上笑顔を浮かべているナマエを前に、無下には断りづらい空気が漂った。 この空気、無視しても良いだろうか?
「…ミホーク」
黙したままナマエを見下ろしていると、僅かに目を細めた笑顔がそれを見返してくる。 「拒否権は無い」とでも言いたげな表情である。
「開けてくれたら、私が入れてあげるから」
卑猥なことを云う。 本人は自覚がないのだろうが、その発言はどうかと思う。 益々断りにくくなるではないか。
「何考えてるの?」 「……大したことは考えておらぬ」 「へぇ…」
まるきり自覚がないわけでも無かったようだ。 そう言って更に目を細めたナマエは、するりと滑るように体重を移動しミホークの膝に上がった。 至近距離で向きあう体勢である。
「あのね、箱の中にはもうひとつ入ってたんだよね。私は帽子だからこれは間違いなくミホーク分だと思うのよ」 ナマエは言いながらその”もうひとつ入っていたモノ”を、すとんとミホークの頭に被せた。
「なんだ?これは」
頭の上にあるのでは自分で確認のしようもない。 ミホークは頭に被せられたそれに手を伸ばす。 なんだこれは、捻れた…角?
「なんか悪魔っぽい角だね。節があって捻れてるヤツ」 「ほう…」 「シャンクスもなんでこのチョイスにしたのかさっぱり分からないんだけどさ、悪魔の角に吸血鬼っぽい牙ってさ、滅茶苦茶だよね。似合ってるけど」
膝に跨ったまま少し体を引いて、まじまじとナマエは角の生えたミホークを眺めている。 とても楽しげに。
「こっちも絶対似合うからさ、ほら」
「口開けて」と、体を寄せ直したナマエが口元に触れてくる。 この体勢もこうして顔を寄せられるのも悪くはない。 その向こうにシャンクスの企み顔が見え隠れするのが気に入らないだけだ。
「…早く」
しかし、囁くようにそう言ったナマエの声が中々聴くことのできない類の心地の良いものだったので、今回ばかりはその気に入らなさも目を瞑るかと云う気になった。 乗せられてやろうではないか。 膝に乗ったナマエの腰に手を回して、口を開く。 嬉しげに人の口の中に手を突っ込んで、前歯に付け牙を装着しているナマエを眺めながら「さてこの後をどうしようか」と思案した。
「できた!」
そう言ってまた少し体を離したナマエは、その声の通り上機嫌である。 口の中に違和感はあるものの、思ったほど不快ではない。 表情のないままにナマエを見返すと、じっとこちらに見入っている視線とぶつかった。
「どうした、不満か?」 「ううん」
目を合わせたまま体を寄せてきたナマエは、牙の付けられた口元を改めて指でなぞった。
「本当にミホークはこういうの似合うんだなぁと思って」
言いながら近づいてきた顔は、止まることなく唇に触れた。 唇を割って入り込んでくる舌を受け入れ、緩く吸うと小さく喉が鳴る。 普段は然程積極的ではないナマエが自ら口吻けて来たことに幾分驚きはしたが、喜ばしいことには変わりない。 ミホークは拙い動きで舌を絡めてくるナマエを強く引き寄せることはせず、されるままに従った。
「…牙…結構あたる…ね」 「問題があるなら外して構わんぞ」 「いいよ…そのままで」
幾らか自制はしているものの、膝に乗られた状態で食まれ続けられては具合が悪い。 これで終わりにする気も互いに無いのだから、なるようになれと云うところなのだが、角度を変えながら深めていく口吻けに自ら息を上げているナマエがあまりにも琴線に触れてくるので、早くも箍が外れてしまいそうだ。 試みに抱いた腰を撫ぜれば、わかりやすい程にビクリと震える。 重ねた口から漏れる呼気の艶めかしさに目眩を覚えた。
「…ナマエ」 「…な…に」
紅潮した顔で見下ろされては保てる理性も霧散する。
「このまま俺を喰う気か?」 「食べていいの?」
この娘はどこでそんなもの言いを覚えてきたのだ…と。 有無をいわさず組み敷いてやりたい激情に駆られて、口吻ける。 じゃれつく猫をあやす様な今までの感覚とは違う、程々に可愛く程々に手放し難い今までのそれとは明らかに違う。
「そんな顔は他の者には見せるなよ」 「かお?」 「分からなくて良い」
手のひらで顔を引き寄せ、愛おしむ様に口内に舌を這わせる。 舌先が動く度に震える体を抱いて「おれは食いでがあるぞ」と囁いた。 ちゅうと唇を吸われる音を幾度と無く聞きながら、必死の様相で舌を絡めてくるナマエの首と耳元を指先でなぞる。 指先を動かす度に口内に漏れる声は、引き攣ったような吐息混じりのもので、これではどちらが食っているのか分からない。 促すように手を引いて、ミホークはひたりと自らの腹の上にナマエの手を置いた。
「そろそろ前を開いてくれ、少し苦しい」
さらりとそう言ったミホークに、ナマエの動きが止まる。 言葉の意味を理解して、ナマエの頬はあからさまに紅潮した。
「手伝いが必要ならそうしよう」
ミホークはナマエの手をとって、ベルトに指をかけさせた。 ナマエはゆっくりとした動きでそれを外していく。
「どうした?口吻けの方はもう終いか」
強請るように引き寄せて、唇を割る。 ナマエの手で前を寛がさせながら、戸惑うような舌を追っていると「んぅ」と声が漏れて、自らの勃ち上がったそれに指先が触れた。 体格の違いと同様に大きさの違うナマエの手でそれを握らせ、覆うように手を添えて動かすと、口内の声は殊更くぐもったものへと変化した。
「ん…んぅ……」
口吻けを深めながらそれを繰り返していると、先端から溢れた粘度の高い先走りで動きはスムーズになってくる。
「続きは一人で出来るか…ナマエ」
にちゃにちゃと卑猥な音を立てているそこから、ミホークは手を離して言った。
「ミホーク…気持、いい…?」 「良くないわけがない」
その顔に朱が差すようなようなことはないにせよ、そう言ったミホークの表情は酷く色気のあるものだった。 続けて擦り上げるとほんの僅か、喉が鳴ったのを感じてナマエは堪らずに口吻けた。
「んっ…ぁ…」
ドレスから伸びた素足にミホークの手が触れ、内側に入り込んでくる。 背中側から下着の中に差し込まれた指先が、既に濡れそぼった場所を刺激して、ナマエは大きく背を震わせた。
「…っや……ミホーク…」
指先はぬるりとナマエの中に侵入し、内壁を掻き回す。 ミホークのものを擦り上げながら内側を強く攪拌されて、ナマエは引き攣った声を上げた。
「んっ……んん…っ…っぁ、あ」 「気持ち良いか」 「…い、い」 「少し…膝を立てろ」
云われるままに膝を立てると、自分が握ったままのそれに腰を寄せられる。 自ら宛てがうような形になって、眼下のミホークを見下ろすと熱を持った視線が促すように揺れている。
「出来るか?」 「…ん」
体重を落としていくと掴んでいた熱が内側に入ってくる。 その熱さと質量に怯んで腰を浮かしかけると、遮るようにミホークの手が腰を捉えた。 心を決めて沈み込むと、意図せずに声が上がる。
「んぁ……っ…あ…っ」
ぐずりと入り込んだそれはまだ半ば程度で、全てが入りきるには至らない。それでもその段階でナマエは腰が抜けたような状態で、浅く息を吐きながらミホークに縋るように倒れこんだ。
「どうした、まだ途中だ」
倒れこんできた体を受け止めながら、ミホークはナマエの耳元で低く囁く。
「続かぬなら俺が動こう」 「い…い、出来…る」
ナマエはそう小さく返しながら僅かに体重を移動したが、角度が変わってしまった所為で尚の事奥までは入らない。 切れ切れに喘ぎながら腰を蠢かしている姿は中々の眺めではあるが、このままでは焦らされているも同然である。 ミホークはナマエの体を支えるように後ろへと押す。 途端に深まりが増した繋がりにナマエは大きく体を震わせた。
「や…ぁっ…っ、待っ…」 「腰を下ろせ、ナマエ」
ナマエの顔を凝視しながらそう言ったミホークに、ナマエの頬が紅潮する。 近い距離で上気した姿を見詰められるのには、いつまで経っても慣れないらしい。
「っ…ぁ…や、ミホーク…の悪魔…っ」 「おれをこんな風にしたのはぬしだろう」 「そ…だけど…っ」
牙の見え隠れする口元を笑みの形に結んだ姿は、頭部の角と相まって悪魔どころか魔王である。 逸らされることのない金色の目から逃れるように、ナマエは視線を落とした。
「このまま下から貫かれたいのなら、それでも良い」 「それは……だ、めっ、…ん、んっ」
強引に貫かれかねない気配に、ナマエは意を決する様に腰を下ろしていく。 自ら奥へと迎え入れていく熱と質量に幾度も体を震わせながら、ナマエはミホークが支える腕の中でそれを奥まで飲み込んでいった。
「ん……ぅう…っ…、あ」
挿れただけで動くでもなく荒い息を吐いていると、内部の熱が脈打つ様子までありありと感じ取れてしまう。 自分から腰を下ろして繋がって行く様を余すところなく目視された事で、既に居たたまれぬ羞恥を感じている上でのそれである。 泰然とした面持ちのミホークが憎らしい。 多少の憎々しさも込めてその顔を凝視すると、拍子抜けするほど優しく口吻けられた。
「…ん…ぅ」
絡められる舌が甘い。 緩やかに食まれ、腰を抱かれてナマエは鼻にかかった吐息を漏らした。
「…っ……ん」 「動いてみろ、ナマエ」 「ん……っ…ぁ、あ…っ」
促されるままに腰を揺らすと、緩い動きにも関わらず強い快楽が返って来る。 結合部が擦れる音に羞恥が刺激されるが、それ以上の快楽に体を止めることが出来ない。
「……っぁ、い、いッ……ミホーク…これ…イ……イ」
体を揺らしながら縋るようにミホークの首に手を回して、ナマエは快楽のまま自ら内側を掻き回していく。 うわ言のように喘ぐ唇に舌を這わせながら、ミホークはナマエの腰を甘やかに抱いた。 己の体の上で腰を動かしているナマエの姿は余りにも扇情的で、上気して潤んだ瞳までもが淫蕩だ。 震える呼気を喰らうかのように深く口付けて、ミホークは未だ入りきらずにいた屹立の根元までを、突き上げるようにナマエの中へと穿った。
「んぅぅっ…!」
途端に爆ぜるようにナマエが啼いて、大きく体を戦慄かせる。 収縮する内側を擦りあげるように動かすと、痙攣しながらも腰を押し付けて来くる事にミホークは薄く笑んだ。
「そんなに良いか」 「い、い…、いい…」 「果てた状態で動かれるのは、嫌なのでは無かったか…?」 「い、い……イヤじゃ…な…」 「そうか――」
最初の突き上げで果てたナマエの体を、ミホークは揺さぶりながら攪拌していく。 抽送の激しさ故に卑猥な粘着音は更に大きさを増して、ぐちゃぐちゃと音を上げ、ナマエはただ喘ぎながらミホークの背にしがみついた。
「ミホー…ク…いい、これ…い……っ……ぁ」
ナマエの下肢は痙攣を続けたままで、内部も強くミホークを締め付けている。 その様子からしても絶頂感が途絶えていないことは明白で、それでも尚欲しがるナマエに対し御し難い感情が沸く。 ミホークは、戦慄きながらも動こうとするナマエを静かに制し、手のひらでナマエの頬を撫ぜた。
「後はおれが動こう――構わぬか?」 「…っふ…、ぁ…い…い、…動…いて」
その答えは、言葉と云うよりも吐息に近い。 漸くといった様子で応えたナマエをミホークは抱えたままソファに横たえて、唇を重ねた。
「んぅ…っ…ふ…ぁ」
口吻けながら体重を乗せて最奥まで穿ち、引きぬく。 惜しむように締め付けてくる体に陶然としながら抽送を重ね、剥き出しの肩や首筋に舌を這わせては歯を立てた。 牙の喰い込む感覚にナマエは嬌声を上げたが、今は悪魔で吸血鬼なのだ、諦めてもらうしかない。
「流石に血まで採ろうとは思わんが、それ以外は覚悟をするといい…性交は契約だと聞くぞ?魔女よ」
牙を口元から覗かせながら笑む顔は、逆光の元、影の中にある。 ナマエは抑揚のない声でそう言ったミホークを見上げて、本物の悪魔もきっとこんな感じなのだろうと思った。 禍々し気な笑みを浮かべておきながら、余りにも魅惑的すぎる。
「……な…に言っ…て…」 「淫らにおれを誘っておいて今更なんだ」 「み…って、待…っ…んんっ…」 「おれをこうしたのはぬしだと――先刻から言っている」 「…牙…嫌……なら…外していいか…ら…っ」 「そうではない――」 「じゃぁ…な…に……っ…、や、ぁ…っ…奥っ…」 「おれを捕らえた――代価と思え」
押し込むように奥を擦り上げて、ミホークはナマエの耳元でそう囁いた。 返答などいらぬ、とでも言いたげに、繋がりがいっそう深まり容赦無く奥が突き上げられる。 声を上げるにも、塞がれた口ではミホークの口内に攣れたような喘ぎを漏らすのが精々で、攪拌される程に意識は霧がかっていった。 捕らえた、等と口ではそう言うが、今まさに食い荒らされているかの如き有様で蹂躙されているのは自分の方なのだ。 その事を本人がまるで理解していないようなのが憎らしい。 食い尽くせるものならそうしてしまいたいが、所詮はただの人間である。出来るはずもない。
(いらぬことに、気づかせおって…)
快楽に朦朧となりながら絡め返してくる舌は、まだとても拙いものであるが、今それを知りうるのは自分だけだと。 余りに人並な専有欲を感じている自分に気づいたのが愉快だった。 「然るべき時が来たなら、どこにでも行け」などと、今後もそのような心持ちでいられるかどうか疑わしい。 それでも、なるようになるのだろうと――ある種楽観に近い心持ちでいるのは悪くない。 それがシャンクスが送ってきた物が誘引で起きた出来事であったとしても、程々に気分は良いままだ。 次に顔を合わせる時があれば、酒のひとつでも馳走してやろう――。 ミホークは気を失ったかのように寝てしまったナマエを腕の中に納めて、静かに牙の跡の残った肩に唇をつけた。
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