「あ、こんばんは」

 バイトからの帰り道、お隣さんと遭遇した。

 今日は遅番だったので、もう陽は落ちてあたりはどっぷり暗い。いつものように余り物の惣菜が入った袋を揺らしながらのろのろと歩いていれば、赤信号に引っかかった。同じように足を止めている隣の人を特に意識せず見れば、最近見慣れた金髪だったので、咄嗟に挨拶してしまった。

 怪訝な表情を隠そうともせず、お隣さんは「‥‥‥こんばんは」と相変わらず覇気の無い声で返した。

「あー、えっと‥‥‥今から帰り?」
「ええ」

 とりあえず在り来たりな会話でやり過ごそうと質問を投げかけてみるも、無愛想な答えが返ってくる。

 なぜ私は彼に声をかけたのだろう。正直、話しかけたところで会話が弾む自信がない。それに、先日の図書館で彼の寝顔もとい泣き顔を見てしまった手前、勝手ながら気まずい思いを抱えていた。

 結局お互い何も話さず、またもや先日のように無言の時間を過ごす。
 先日といえば、あの時は彼から話しかけてきた。世間話の一環だとは思うが、意外にもおばあちゃんを心配してくれていた。まあ、彼にとってはおばあちゃんは家がなく露頭に迷うところを助けてくれた恩人なのだから、心配ぐらいするか。

 パッと信号が青に変わる。向かう先が同じなので、揃って足を踏み出す。身長が変わらないのに、彼の方が半歩前をリードするのは一緒に帰る気がないから早歩きなのか、足の長さの違いなのかはわからない。私は私で、わざと歩みを遅らせて先を行かせようと、ゆったり足を動かす。

「先日、図書館でそれを置いて行ったのはあなたですか」

 少し前から聞こえる声が私に向けての質問だと思わず、答えるのがワンテンポ遅れた。

「それ?」

 間抜けな私の声に、彼は私の手元で揺れる惣菜の袋を指差した。「それです」ああ、それね。

「そうだよ。美味しかった?」
「‥‥‥施しを受けるつもりはないので、今後はああいったことはしないでいただきたい」

 それだけ言うと、彼は今度こそ私から離れるために足早に去っていった。一人置いてかれた私は間抜けにもポカンと口を開ける。

 てっきり「美味しかったです」とか、「ありがとうございました」とか言われるかと思ってた。気遣った私が馬鹿みたいじゃないか。こっちは骨が浮き出るほど飢えている彼に恵んでやったおかげで、しばらくはカップラーメンとスーパーの萎びたサラダを食す日々だったというのに!

「ほ、施しってなに!恩知らずっ!」

 彼が角を曲がって完璧に見えなくなってから叫んだら、ランドセルを背負ったチビガキ集団に「姉ちゃんうるせーよ!」と野次られた。納得いかない。


2017.7.6

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